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ずっと後悔していた。
夏央があまりにも俺に楽しそうに話しかけるから、勘違いしてしまったんだ。コイツも俺に気があるんじゃないか。そんな過信のせいで、冷静さを失ったまま口走ってしまったこと。男同士で、そんなことあるわけないのに。
あの時の夏央の驚いたようで一歩引いたような顔が、もう何年も目に焼き付いて離れなかったのに。
「――なんで、今なんだよ。あの時言えよ、くそ」
「俺だって必死だったんだよ。恐怖を恋と勘違いしてる良をずっとドキドキさせるにはどうしたらいいか……」
「はぁ?」
この気持ちが勘違いなわけあるか。アホかコイツ。
「今日で、ちょうど10年なんだ。良に一目惚れして、俺の世界に連れ出してから。10年かけて吊橋効果を体現してみた。少しでも成功率を上げたくて。……どう、成功?」
「……そんな余裕そうな顔で言うセリフじゃねぇだろ」
「あはは」と夏央は屈託のない顔で笑う。
互いの鼻先が、再び触れ合った。少しずつ息が近くなる。
「でね、この夜景が織りなす光のひとつにはね、ビルの中にいるブラック企業の社員の皆さんがこんな時間まで汗水垂らしながら働いて心身を病み――」
「ムードぶち壊すこと言うなボケ!」
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