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この廃墟は、曰くの部屋があるという噂で有名だった。
探すまでもなく、入った瞬間にここがその部屋だとわかった。壁一面、天井にも貼られた大量のお札、そして中央には背もたれが朽ちた椅子が一脚。その椅子の真上には、先が輪っかになったロープが垂れ下がっていたのだから――
恐怖のあまり、俺はその後しばらく意識が遠のいてしまっていたらしい。ハッと目を覚ますと、助手席に座っていた。夏央は隣で、「良いのが撮れたからもう帰る」なんて言っていた。
少し喉が痛いのは、思いっきり叫んだからだろう。
てかなんでコイツは片手で運転してんだって思ったら、俺が夏央の左手を自分に引き寄せて両手でガッチリと掴んでいたからだった。
「わわわ! ごめん!」
「いいよ。仕方ないから手、握っててやるよ」
咄嗟に夏央の手を離そうとしたのだが、逆に掴まれてしまった。
怖くてドキドキしているのか、別の意味でドキドキしているのか、もうわけがわからなかった。
俺にとって初ロケの思い出は、断然こっちだった。あの時の胸の高鳴りを思い出すために、何度もこの動画を見てしまう自分が心底嫌になる。
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