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食堂付近の廊下は人が混雑していた。
食堂に入るかなり手前から、食堂に行くための社員が並んでいる。
前に並んでいる男たちの会話。
「これじゃ今日もスペシャルランチは売り切れだなぁ。おまえ何にすんの?」
「スペシャルランチ食いてぇ〜」
「無理だろ。俺はカツカレーにする」
「ってか、おまえカツカレーばっか」
と、その時。
列に並んでいた私の前に無理矢理三人の若い男性社員が割り込んで来た。
「あの、並んでるんですけど」
と言ってみた。
まるで聞こえないふりをして三人でゲラゲラ笑っている。
「すみません。並んでるんです。割り込まないで下さい。」
少し大きな声で言ってみた。
一人の男が私を見て
「誰アンタ?何言ってんの?」
という。
「みんな並んでるんですから。割り込みは良くないでしょう。」
いちおう目を合わせず静かに言ってみた。
「・・んだとぅ?俺らだって並んでんだろ。うっせぇんだよ。」
仲間の男も加勢してきた。
「アンタどこの課?バイトだろ?何なら課長に報告してやってもいいんだぜ、あははは」
私は少し考え、わざと黙って三人の顔の写真を撮った。
すると三人は興奮し、そのうちの一人が私の肩を強く押した。
あわや転ぶかと思った時、どこから現れたのか涼介がすかさず私を支えた。
「なんだテメェ!」
「こんなババァ庇ってもイイこたぁないぜ、はははははは」
「おまえどこの課だよ?!何で名札してねぇんだよ」
三人は言いたい放題だ。
騒ぎに気付いた他の社員たちの視線が集まる。
三人は急にダンマリを決め込み、そのままおとなしくなった。
私と涼介は、それとなくいっしょに食堂に入り、食券を買う。
食券を買う時、既にいくつかのメニューのボタンは『売り切れ』表示になっていた。
スペシャルランチ、和定食、中華定食、炒飯ラーメンセット、かけ蕎麦カツ丼セットなどは売り切れで、残っているのは単品メニューだけ。
まだまだ社員の列は続いていて、遅く来た人が昼休み中に食べ終われるのか心配である。
私は野菜サラダとスパゲティ・ミートソース、涼介は親子丼とカレーうどんにした。
券を最寄りのカウンターに出すと、昔ながらの楕円形のプラスチックの番号札を渡される。
待ち時間は短い。
3分くらいで呼ばれ、各自お盆にのせてテーブルへ向かう。
味は悪くない。
格安価格の割に、ボリュームもある。
岡田副社長から着電。
とりあえず無言で出る。
『社長。昼食にお誘いしようと思いましたが、今、どちらにいらっしゃいますか?』
「今、手が離せない。後で連絡する。」
ささやくように答え、電話を切る。
涼介は、あっと言う間に食べ終わったので、午後からは宿題に励むよう伝えて食堂で別れる。
私は周囲を観察しながら、ゆっくり食べていた。
昼休みが終わる時間になっても、まだ廊下に並んでいる社員たちがいる。
券売機が一台しかないからだ。
その上、途中、売り切れのメニューが発生するたびに、調理場から誰かが走って来て、券売機の扉を開け『売り切れ』表示に切り替えている。
よく今まで、こんな旧態依然でやってきたなと、ある意味、驚く。
会社には女性社員も相当数いるはずなのに、社員食堂に来ているのは90%男性社員である。
女性社員は自分で弁当を持って来ているのだろうか?
その場合は、どこで食べるのだろう?
それとも近くに行きつけのレストランかカフェがあるのだろうか?
ぼんやりそんなことを考えていると、女性社員ナンバーワンの出世頭、やり手の仁科経理部長が食堂に現れた。
彼女は勘が鋭そう。
見つかると面倒だ。
私はそそくさと食器を返却し、食堂から退散した。
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