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人目に触れないよう細心の注意を払い社長室に帰り着く。
気合いの入った社長スタイルに着替え、髪やメイクを整えていると運転手の佐川から着電。
「社長。白いベンツのご用意ができました。いかがでしょう。さっそく乗り心地を試してみませんか?会社の通用口側にて、お待ちしております。」
私は岡田を呼び、新車の乗り心地を確かめながら、所用を足し、そのまま帰宅する旨を伝える。
「卯都木が何やら張り切って社内各所を駆けずり回っているようですが。彼のことは私にお任せ下さい。サポートさせて頂きます。本日はお疲れ様でした。『大根』の額は、どこに設置致しましょう?」
「正面玄関ロビーの真正面に!」
「小さなレプリカを作製して、社長室にも飾ってはいかがでしょう?」
「レプリカの必要はありません。社長室に飾るものは直筆で別に書いていただきます。では、後はよろしくお願いします。」
会社の通用口では、佐川がニコニコして待っていた。
「いかがでございましょう。」
「えっ?!これ?!スポーティーね」
「切れ味爽やかな社長には、スポーツカーの方がお似合いかと!」
「いいわ。車の選択は、佐川の勘に任せます。お天気がいいので、海でも見に行きましょうか。佐川は、どこか走ってみたいところあるの?」
「最近、当社への契約が急増している千葉県内の大根畑を、社長にぜひ、お見せしたいのですが、いかがでしょう?」
「大根畑!あははは。見に行きましょう。」
「社長、実は、仁科経理部長も、以前から大根畑を見に行きたいと申しておりまして、同乗させて頂きたいのですが、いかがでしょう。」
「いいわ。往復する時間、いろいろな話を聞けるし。時間は有効に使わなきゃね。」
間もなく、仁科と、渋みの効いたハリウッドスターばりのイケメン男性社員が現れる。
「経理部長の仁科佐和子です。」
https://estar.jp/users/521370247
「経理部農業担当課長、田丸哲二です。」
https://estar.jp/users/7634940
佐川は急にズルそうな顔つきになり、田丸課長に笑いかけながら、こんな誘いを。
「おや。田丸さん。これはちょうどいいところへご登場いただきました。どうでしょう?!社長と経理部長の美女二人、両手に花で、大根畑までドライブデートとシャレ込んでみませんか?」
田丸は、車を見て
「僕でよろしければ、お供させていただきます。」
と目を輝かせている。
佐川は私に、こう説明した。
「社長。田丸さんは、国際ラリーのトップドライバーなんです。国内では各地で栄誉ある賞を総なめにする実力ナンバーワンのドライバーです。」
「まあ。それじゃ佐川は会社でゆっくり休んでるといいわ。」
私は、田丸の運転するベンツで仁科経理部長と共に千葉県の大根畑へと向かう。
仁科の話によると、ここ数ヶ月、大根の盗難が相次ぎ、大根畑の持ち主から畑を警備して欲しいという依頼が急増しているのだという。
なぜ大根の盗難が?!
もう少し高価なものならいざ知らず、あんな安価で容積がある野菜を大量に盗んだところで、労力の割に金にならないではないか?!
私がそうした意見を述べると、田丸は意外なことを言う。
「社長。それは違います。今、大根は闇の世界で一番人気のある人材です。有能で、よく働き、細かい気遣いができる上、給料も支払わなくて済むと、人材派遣会社では、人間より大根の方が人気があるのです。」
さらに仁科が付け加えた。
「まあ、雇ってみてダメなら、食べてしまえばいい、という点では、最高の働き手です。文句を言ったり怠けたりする大根も、味は悪くないですから。」
私は青ざめた。
何を言っているのだ?!
この人たちは正気だろうか。
とは言え、我が夫代理も、正真正銘の大根である。
大根役者!などとカッコつけているが、ただの大根である。
私は内心ドキドキしていたが、いかにも冷静さを装い、仁科に尋ねる。
「畑は広いでしょう。どんな方法で警備をしているのですか?」
「最新式のステルスドローン型AIに24時間体制で監視させておりますが、未だ未解決の盗難が相次ぎ、補償金の請求ばかり上がってまいりまして、実際、頭を悩ませているところでございます。」
田代は付け加えた。
「恐らく、空からは見えない別ルートでの盗難計画が進行しているのだと思います。」
私は驚愕しつつも、やはりここは、社長らしく落ち着いて対応しなければと気を引き締め、眠そうな気の抜けた印象を装い、こう言ってみた。
「ちょっと、あなたたち。そもそもの考え方がズレてるんじゃない?大根たちは、きっと何か甘い誘惑に負けて自ら逃げてしまうんじゃないの?どんな手を使っても逃げようと思えば、いくらでも逃げる方法はあるでしょう?」
仁科は腕組みして答えた。
「さすが社長。実は私も、その線を疑っていまして。それで、一度、現地に行って本人たちの言い分を確かめてみたいと思っていたのです。」
田丸は少し赤面して告白した。
「僕は大根を誘惑したことは二度しかありませんよ。あの白い肌のすべすべした感触は確かに魅力的です。従順で清楚な大根は、人間より気を遣いませんし。一度、味わった男たちが夢中になってしまう気持ちはわかります。」
「まあ、なんてことを!」
仁科は田丸を侮蔑したような目で見つめている。
私は、自分も大根を味わっている一人として、田丸を庇いたいと思い、田丸に援護射撃をした。
「あら、仁科は大根の経験ないの?ヘタな男より大根の方が、ずっといいわよ。」
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