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いつも夫が寝ているはずの隣の枕に、見知らぬ男が横たわっていた。
いや、これはどう見ても、男と言うより…
大根だ!
大根は、困った顔をしていた。
「ちょっと…どういうこと?」
私は震える声で大根に尋ねた。
「あのですね。実はですね。」
大根は、むくっとベッドの上に起き上がって説明し始めた。
「旦那さんは、浮気をしていたんです。」
「はぁ?」
「それで、浮気相手の女性が旦那さんの子どもを出産したんです。」
「マジ?」
「ええ。ですから、あなたとは離婚したいと言ってました。」
「そ、そんな?」
何か、夢のような感覚で、これは現実だろうかと頭が混乱する。
「急に、そんな話をされても困ると思いますが」
大根は淡々と話を続けた。
「困るに決まってるでしょ。だって、昨日までカレ、普通に優しかったし」
「そうですよね。旦那さんは、とても優しい方です。だから、離婚するにあたり、旦那さんの代わりに僕があなたの夫になるようにと、昨夜、急に頼まれたんです。」
「いや…その…急に頼まれたって…どこで?」
「台所です。冷蔵庫の中にいた僕を、突然ですね。食卓テーブルの上にのせましてですね。旦那さんは僕にすがりついて。あなたのことをよろしく頼むと言われましてね。」
私は、大根の話が本当なのか?!にわかには信じられなかった。
昨日までの夫に、そんな気配がまったく感じられなかったから。
自慢じゃないが、夫は、そこそこイケメンで小さいながら警備会社を経営していて仕事は順調だった。
どんなに忙しくても、毎晩きちんと帰って来て、家事も手伝ってくれたし、ベッドでもやさしくしてくれた。
子どもたちは社会人になり、私たちは夫婦二人で暮らしていたが、夫は明るく楽しく気配りのできる人で、非の打ちどころがない、私にはもったいないくらいのイイ男だった。
だからと言って、いくら私にはもったいないくらいのイイ男だからと言って、浮気して外に自分の子どもまで作って、離婚するだなんて!
「お気持ち、お察し申し上げます。」
当惑する私の顔を、じーっと見ていた大根は、そう言ってポロッと涙を流した。
「私…どうすればいいの?」
途方に暮れた私は、大根に尋ねた。
「ご安心下さい。僕が、あなたを守ります。」
大根は、ベッドに座り込んだまま動けずにいた私を、ギュッと抱きしめてくれた。
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