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私は、大根の指示に従い、何度も何度も受賞式に備えて様々な練習を繰り返した。
インタビューの練習では、大根は考えつく限りの難しい質問を仕掛けてきた。
仮質問『そもそも、野菜小説にこだわっている理由はなんですか?』
「野菜は神秘。無限の魅力を秘めている。こだわっているのではなく、自然に欲しているのです。毎日食べても飽きませんから。特に大根はさまざまな料理を楽しめます。」
「ダメだ。長過ぎる。自然に欲している。それだけでいい。」
仮質問『普段、野菜をどのようなお気持ちで召し上がっておられるのでしょう?』
「宇宙旅行をしている感覚です」
「うん。それは素晴らしい答えだ」
仮質問『この小説で一番、訴えたいことは、どんな事でしょう?』
「栄養豊富な根菜を襲う必然的悲劇と未来への提言」
「苦しい。根菜のむかうべき未来。それだけでいいかな。」
こんな調子だ。
私は、庶民が親しむ野菜の日常性を、いかにして払拭できるか、その一点を考えて答えを工夫した。
ウソにならないギリギリの高さで野菜の存在を哲学的断片に置き換えるのだ。
ひたすら、そんな練習を繰り返すうち、大根が考えている『真白 実』像がそれとなく身についていく。
まるで大根が特定の出汁に浸され旨味を増していくかのように。
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