2:ケルピーのミートパイ

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 城下町では昔から良く行方不明者が出る。  けれど、前触れなく旅に出る人間も、そのまま帰ってこない事もまま良くあることであったので、それほど問題になることはなかった。  けれど、先日いなくなった子どもは別だ。  生後7か月の女の子。  自分で移動できない生き物が、勝手にどこかに行くなんてあり得ない。誘拐であるという確信と、事は一刻を争うという判断から、騎士団から学園に協力依頼が来た。  食堂で喧々と騒いでいた筈のエディ達4人は、招集を掛けに来た2学年歳上のザカライア・カルバート、途中で合流した彼の兄エルドレッドと共に捜索にあたり、そして残念なことにを引いた。  そこは城下町の住宅地の一角にある、なんの変哲もない家だった。  こじんまりとした白い煉瓦の家。赤い煉瓦の倉庫がある。庭が広くて、休日にはバーベキューなどしてても可笑しくなさそうな、どこにでもある家だ。言われてみれば人の気配がないような気がする、違和感と言われればその程度。  だというのに蓋を開けてみれば出てくる死体の山。トバリとラックは気絶していたので知らないだろうが、あの(おびただ)しい量の白骨には、豪胆なギルバートでさえ言葉を失っていた。 「ま、俺らはもう関係ないけどね」  ずずっとラックはカップの中身を啜る。鼻の上に白い髭ができているのが間抜けだ。 「捜査は引き続きエルドレッド先生が担当するそうですね」 「あの人教職だろ。教師やりながら魔法化学の研究やって、たまに癒術士として病院勤務して、事件の捜査もすんの? 身体足りねーよ。仕事大好きか」 「なんでも、有力な容疑者が先生の学生時代の友人らしいですよ。怪しい飲食店の経営者だとかで、強制的に家宅捜索に踏み切られそうなところを割って入ったとかなんとか」 「怪しい飲食店って?」 「『悪食の箱庭(グラトニー・ガーデン)』というゲテモノ食専門店だそうです」  ゲエ、とラックは舌を出した。  ラックが思い浮かべるところのゲテモノ食とは、故郷でよく食べられた巨大バッタや宝虫などの昆虫食だ。彼自身、食えないものではないが、城下町まで行って食べたいものではない。 「お前ほんと情報通な。そういう話、どこから拾ってきてんの?」 「内緒です」 「ぶりっ子すんな。気持ち悪い」  話していたら気が紛れて来たのだろう、2人の顔色は少しばかり血の気を取り戻し始めていた。 「うむ。元気になって何よりだな」  両手にマグカップを持ったギルバートが嬉しそうに頷く。  差し出された青いカップを受けとれば、熱々のミルクココアの海に、ぷかぷかと白いクジラの形をしたマシュマロが浮いているのを見て目を輝かせる。エディはマシュマロが大好きだった。 「お前らは平気そうだな」 「ボクを幾つだと思っているんだ。年の功だろう」  鼻を鳴らすギルバートの横顔はどう見ても少年期と青年期の狭間にある。しかし彼に言わせると「同学年よりはだいぶ歳上」との事らしい。
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