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「…………なるほど」
納得がいった、とエセルは頷く。
「現場も見てきたけど、まあひどい有り様だったよ。……テーブルに並べられたフルコース料理は全て解体された赤子の血肉で出来ていたし。大皿に盛り付けられた頭部を見て一緒にいた子は卒倒しちゃったしね」
「あらあら」
「キッチンの大鍋の中にも数人、倉庫には白骨死体が数えるのも馬鹿らしくなるほどあったよ。衝動的かつ最近の犯行じゃない。2年以上前から繰り返しやってるね、あれは」
「よくもまあ、今までバレなかったものですね」
「何重にも隠匿魔術がかけられてた。ザカライアが気づいて、僕が解除したのさ」
「ザカライアくんはまだ学生じゃありませんでしたか? 子どもを事件現場に連れて行くなんて相変わらず人の心がありませんね。……だいたい事件の捜査は騎士団の仕事でしょう。事件の捜査にまで駆り出されるなんて、天才魔術師の肩書きも楽じゃないってことですかねぇ」
「キミも相変わらずハチの巣つついたみたいに嫌味を言うね。……騎士団も人手が足りないんだよ。今回の件は緊急だったし」
はあ、と色をなくした唇から大きなため息が溢れ出る。
本来、国内で起きた事件はその地域の警備を任されている騎士団が調査することになっている。今回のように魔術が絡む場合も、騎士団に所属している魔術師が調査に携わるべきなのだが、魔術が使えなくてもなれる騎士に、わざわざなりたがる魔術師は少ない。騎士団とのつながりが深く、多才で優秀なエルドレッドはいつだって彼らに助力を乞われていた。
「それに、文句ならもうザカライアから貰ったよ。弟はある程度の出来事には即座に順応できるけど、学友の方はそうではないからね。『後輩が泡吹いて倒れた!』ってお冠さ」
しばらくは学生の手は借りれそうにもない。頭の痛い話だ。もちろん学生の手を借りねば回らぬ程に人手が足りないという事実に対してだが。
「それで、話を戻すけども」
エルドレッドは一拍開けるようにカップを傾けた。少し温くなってしまった珈琲が喉を潤す。金色の瞳が「わかってるだろ?」と目の前の古馴染みに訴えた。
「私に容疑がかかってるんですね?」
「あんまりに短絡的だとは思うけどね」
エルドレッドは顰めっ面を隠さない。言外にエセルを疑っているのは彼自身ではないという事なのだろう。
彼の脳裏に思い起こされるのは、凄惨な事件の解決を急がせる上役と、正義感にいきり立つ血気盛んな騎士達だ。彼らを宥めるのは、かなり骨が折れた。
「アンジェリカの事もあるし、僕自身は君が犯人だなんて思ってないけどね。……半分くらいは」
「そこは嘘でも『僕は信じているよ』って言う所ではないんです? 人肉は需要はあっても身体に悪いですから。私は手を出さないですよ」
「そういう言い種が疑われる要因なんだよ?」
眉を潜めた友人にエセルは「ふふふ」と小さく笑って見せる。笑う時に人差し指で唇を触るのは子どもの時からの癖だった。
「笑い事じゃないよ。騎士団に調査に来られたら店を荒らされてしまうよ。キミは魔術師だから念入りにね」
騎士団の捜査はかなり荒っぽい。特に隠し事の上手い魔術師に対する捜査は野蛮の一言に尽きる。彼らの捜査により工房や店を破壊され、職を失うことになった魔術師は後を立たない。仕事熱心なのは結構だが、やられた方はたまったものではないだろう。
「ああ、なるほど。心配してきてくれたんですね」
「はぁ~~~? そんなんじゃないですけど?」
意図せず大きな声が出た。真っ赤な顔で憤るエルドレッドを見て、エセルは「友達冥利につきますねぇ」と可笑しそうにクスクスと笑う。
「冗談はそこまでにして、実際どうなの?」
恥ずかしそうに睨み付けてくるエルドレッドの視線を無視しながら、丸いティーポットにお湯を注ぐエセルは「そうですねぇ」と言葉を選びながら話し始めた。
「実際、この界隈ではそうマイナーな趣味でもないですよ。カニバリズムやらヘマトフィリア……バンパイアイズムというと吸血鬼の方々から顰蹙を買うんですよね……食欲と性欲は時に一心同体になりますから。ただ生憎、ウチでは人肉食の提供はしておりません。さすがに法に触れますからね。まあ、お客様の中には種族問わずそういった癖をお持ちの方はいらっしゃいますけれど」
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