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2.平凛の面接
面接会場の前で待っていると、受験番号を呼ばれた。順番だ。平凛はドアを入り、
「失礼します。神宮寺 平凛と申します。よろしくお願いします」
そう言って椅子にかけ前を見ると、3名の面接官が座っていて、みんなどう見ても50歳以上の人ばかりだった。
一番左の白髪混じりの人が、
「確認しますね。リラックスしていいですよ。神宮寺 平凛さんで、間違いないですね?」
とゆっくりとした口調で聞いて来た。平凛は何も緊張していなかったので、普段通りに、
「はい、そうです」
と答えた。
次に右端のハゲた男が、
「進学を決める時、うちを選んだ理由を教えて下さい」
と聞いて来たので、平凛は素直に、
「近かったからです」
と答えると、
「は?すみません、もう一度お願いします」
「家から一番近くの学校だからです」
と少し砕いて答え直した。
ハゲた男は、
「え?すると、当校の伝統とか校風などは考えなかったんですか?」
平凛はちょっとカチンときて、
「校風なんて入学もしていないのに解りませんし、伝統など私にとってはどうでもいいことです」
そう答えると、真ん中にいた男が、
「君が高校を決める基準は距離だけなのかね?」
と、やや語尾を荒げて上体を前に傾けながら言ったら、両側の白髪とハゲが手を伸ばして止めた。
真ん中の男は、背が高くてひょろっとした体形で、鼻の下から左右に「ピン」と上がり気味のヒゲを生やしている。一見して教頭のような感じで神経質そうな男だった。平凛は、
「私にとっては高校はただの通過点だと思っております。極端な話、高校は花嫁修業をする時間だと位置づけております」
と答えると、ヒゲは、
「き…き…君はうちを侮辱しているのかね!」
と言って立ち上がろうとするのを、両側から押さえつけられているため立ち上がることができない。右側のハゲがヒゲに、「スッ」と資料を渡し、それを見たヒゲは一瞬目を見開いたあと固まってしまった…。数秒あと、
「ちょ…ちょっと中断する。君は後ろを向いていてくれたまえ」
とヒゲが平凛に後ろを向けと言った。
「ハイ…」
と言って平凛は後ろ向きになったが、3人の会話はほぼ筒抜けだった…。
「教頭先生、いったい…」
白髪が心配そうな声を出している。やはりヒゲは教頭だったのか、と平凛はおかしかったが、声に出さずに笑いを飲み込んだ。
「こ…この成績は間違いないのかね…?」
ヒゲだ…。本人たちはボソボソ言って聞こえないと思っているみたいだ…。
「その資料に間違いはないです。この子は首席でしかも飛びぬけています」
とハゲ。
「う~む、校長から主席の子だけは何としてでも獲得しろとの命令があっていたが、この子がそうだったのか…。よし、わかった」
「ゴホンッ」と咳ばらいを一つしてヒゲは、
「あ~神宮寺さん、お待たせしてすみませんでした…」
と言葉遣いを変えてきた…。
平凛が前に向き直るとヒゲが、
「え~、君の面接は問題ないとみて終わりとしますが、当校に何かお聞きしたいことなどあれば伺います」
と逆に聞いて来たので平凛は、
「一つだけあります」
と言い、とんでもないことをしゃべりだした…。
「私は16歳になるとすぐに、結婚をしとうございます。つきましては、そのことを知っておいてくださいませ…」
…面接中断2回目…
「オイ!これはどうなっとるんだ!」
もはやヒゲは普通にしゃべっている…。平凛は、(後ろを向く意味、あるのかな…?)と思った。
「しかし、校長の決定は絶対でしょう」
と白髪。これも通常会話のトーンだ。
「もし他校に行かれるようなことになれば、教頭先生が責任を取って下さいよ?」
ハゲも同じ声の高さで続いた。
教頭は少しの間下を向いて、顔を上げ、
「ハイ、神宮寺さん、もういいですよ」
平凛が向き直るとヒゲは変な作り笑いを浮かべて、
「あのう~、ご結婚は卒業なさってから、ということではダメでしょうか…?」
「ダメです。法律で高校生は結婚してはならない、となっていればしませんが、どの法律を見ても、そんな条文はどこにもありません」
と平凛は即答した。
ヒゲは何も言い返すことができず、
「わ…わかった…。認めるから、うちに入学してはもらえませんか?」
と、今度は下手に出てきた、というよりも面接の場でいきなり合格発表したような格好になった…。白髪とハゲが、「ちょ…」と何かを言いかけたのを、ヒゲは両手で止めた。
平凛が、
「それでよろしければ、こちらの学校に決めたいと存じます」
と言うとヒゲは立ち上がり、
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
と深々と頭を下げた…。両側の二人も仕方なく立ち上がり、同様に頭を下げた…。
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