5.平凛の新婚旅行

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5.平凛の新婚旅行

 披露宴が終わった直後、オレと平凛はレンタカーに乗りそのまま新婚旅行に出発した。年度替わりの忙しい時期だけれど、人生に一度の新婚旅行なんだぜ、これくらいいいだろ?とオレは心の中で正当化した。  夕日が西の山にかかろうとしている。ここから愛媛県大洲市まで走り、そこからフェリーで九州に渡ることになる。目的の別府のホテルに到着するのは、たぶん夜の9時を過ぎるだろう。  まずは荷物を満載したこのレンタカーで、国道56号線を走ることになるが、大洲市までには数か所自動車専用道路もできていているから、わりとスムーズに行けるはずだ。  本当なら披露宴の席では新郎新婦は飲みつぶされるほど酒を飲まされるのが普通だが、今回はすぐに運転をしないといけなかったために、全ての人からの酒を断っていた。高知の風習では、披露宴では次から次に新郎新婦に酒をつぎにやってくる。平凛は高校生だからまだしも、代わりにお前が飲めと言わんばかりにつぎに来るのが普通だった。来賓はそれが当然だと思っているのが高知の非常識なところだ。  人によっては、 「俺の酒が飲めんのか!」 と怒り出す者もいるが、今回はそういう人物は呼んでいなかったから、人選は正しいと言えた。  オレの仕事柄、飲酒運転は即クビが飛ぶからな…。  大洲の港に時間通りに着くと、手続きを済ませてフェリーに車を乗せた後、船室に移った。フェリーが出航するころ、途中で買った軽めのお弁当を二人で食べた後、オレは寝転んだ。外に出ても真っ暗だし、疲れてもいたからな。  平凛はすぐにひざまくらをしてくれた。平凛のひざまくらも久しぶりだが、心なしか太ももが柔らかくなっている気がする…。疲れていたのかオレはすぐに眠ってしまったようだ。平凛に起こされたとき、フェリーが大分の港に入るところだった。  「あ、悪い、平凛。オレだけ寝ちゃったな」 「いいんですよ、旦那様は運転もしてましたし、仕方がないです」 この平凛の控え目さが可愛かったし、オレは好きだった…。 フェリーから降りて今日のホテルに向かう。目的地はここから20分くらいの場所のようだ。  今回レンタカーを選んだ一番の理由は、カーナビの最新情報が入っているからだった。披露宴の直前に全ての行先を登録しておいたので、簡単な操作だけで行先を選択できる。オレの車のナビは古すぎて使い物にならないからな。そう考えたら平凛と結婚した記念に新車を買おうかなとふと思った…。  ホテルにおおよその到着時間を連絡した後車を走らせる。最近のPHV車なので上り坂にかかっても馬力があり、すいすいと上がっていく。
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