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第四章 拒絶
洞窟に入るような気持ちでムーンライトの扉を開ける。ドアベルもなにもない。無音。中には淡い色の照明が点いていたが、店内には誰の姿もない。怪しんでいると、奥から暗い表情の中年の男が出てきた。顔はまるで客がやってきたことを非難するような表情をしていた。とてもじゃないが商売人には見えない。
しかし、どうやらこの店に入った人が全員帰らぬ人になっているという考えは杞憂だったようだ。その店主はやせ細っており、顔は中年なのに身体は老人のようだった。とてもじゃないが、武器を持った旅人たちと戦える人種ではなさそうだ。
「いらっしゃい」
今にも消えそうな声で男は言った。
セボンは店の中に珍しい道具や武具は置いていないか見回した。しかし、武具はおろか、道具でも珍しいものは何もない。薬草に聖水、毒消し草、持ち運び用の水やクッキー。これじゃ、この街に来る前に立ち寄った田舎町のルベーラの道具屋と品揃えが変わらない。どこの道具屋でも置いてある最低限のものしか置いてないように見えるし、値段も同じだ。安くも高くもない。
「あの、売ってるものは、ここに置いてあるものだけですか?」
恐る恐るセボンは店主に聞いた。
「そうだ」
「えっと、例えばこの店にしか置いてないような珍しい道具とか武器とかはあったりしないですか?」
「武器? ここは道具屋だ。あるわけないだろ」
たしかにごもっともだが、それならなぜこんな時間だけ営業して、商売が成り立っているのかがわからない。
「なんだ、冷やかしか?」
店主はセボンをにらみつけた。
「いえいえ、そんなことはないです。ただ一つだけ聞いていいですか? なぜ、この時間に営業してるんですか?」
「そんなこと、なぜ初めて来た客に言わねばならん」
店主の高圧的な言い方に、セボンは納得せざるを得なかった。何も買わないのもなんだと思い、丁度切らしていた薬草を二個だけ買った。 普段なら十個くらいまとめて買っていたのに、それだけしか買わなかったのはなぜだろう。もう自分は戦うことはないと思っているのだろうか。
期待を大きく下回る結果に落ち込んで、セボンは扉に手をつけた。
そのとき店主がセボンを呼び止めた。
「ちょっと、兄ちゃん」
「はい?」
「名前はなんていうんだ?」
セボンは突然の質問に戸惑い、なぜ初めて来た店の店主に名前を教えないといけないのか、と一瞬言いかけたがやめた。
「セボンといいます」
それに対する男の反応は何もなかった。
「おじさんは、なんていうんですか?」
セボンがお返しとばかりに聞くと、男は首をかしげて答えた。
「ホワイトだ」
それには何も答えず、セボンは礼を言って店をあとにした。
ムーンライト。
その名の通り、空を見たら満月でも見えるかと思ったが、月は出ていなかった。雨雲に隠れているのだろう。
ちょうどそのときのセボンの気分に、それは似ていた。
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