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第五章 困惑
起きてカーテンを開けると既に太陽がでていた。
結局昨晩夜中にムーンライトから帰ってきて、すぐにまた寝たから丸二日分ほど寝たのかもしれない。しかし、長く辛かった旅の疲れが少しとれた気がした。
セボンが睡眠の重要さを再認識していると、軽いノックのあと間髪入れずに扉が開いた。
「やっと起きたかい。いつまで寝てるのかと思ったよ」
女将はそう言いながらまた部屋を出ていき、次に来たときには朝食を持ってきた。トーストと卵を炒めた料理だった。
セボンはテーブルに座り、早速それを食べようとすると、
「結局、昨晩は行ったのかい? その店に」
女将はムーンライトの貼り紙を指差して聞いた。
「はい、行きました。でも特別なものは何も売ってませんでした。ただ異様に暗い店というだけで」
「やっぱりね。そりゃ凄いものが売ってたら噂になるし、私のところまで絶対情報が入ってくるからね」
たしかにそうだ。でも気になるのはやはり営業時間だ。なぜあんな時間だけ開けているのか、結局教えてくれなかった。
「でも、それだとおかしいねぇ。珍しいものが売ってるんだったら、深夜の一時間だけ開けてても客は来るだろうけど、普通の品揃えで開けてたら、緊急用の薬草くらいしか売れないんじゃないかい。それで、商売が成り立ってるとは思えないんだけどねぇ」
それもそうだ。しかも、現に客が来てる雰囲気は全くなかった。
「なぜなんでしょう。店主の名前は聞いたんですけどね。ホワイトさんというらしいです。なにか噂とか聞いたことはないですか?」
「ホワイト? うーん聞いたことないねぇ」
こんなにこの街に溶け込んでそうなおばさんでも知らないのか。ますます謎だ。
「知り合いとかに、あの店とかホワイトさんについて知ってそうな人はいないですか?」
セボンは話してるうちに、どんどんあの店のことが気になってきた。もう一度あの店に行ってしつこく聞けばいいのかもしれないが、あの偏屈そうなホワイトが一度拒否したことを素直に教えてくれるとは限らない。
「あっ、それなら昨日教えた噴水広場あるだろ。あそこを左じゃなくて右に行くと少し広い通りに出るんだ。そこを真っ直ぐしばらく行ったら左手に図書館があって、その向かいにコリーという名前のおばさんが住んでる家がある。私の友達だよ。そのおばさんも噂好きだし、場所もその店から近いからなにか知ってるかもしれないよ。行ってみたらどうだい」
女将が少し得意げに教えてくれた。願ってもない話だ。そうと決まれば早速行く準備をしないといけない。
セボンは朝食を搔き込んだ。
「コリーさんという方の家ですね。ありがとうございます。今からすぐ行ってみます。朝食ごちそうさまでした」
そこでセボンは一つの疑問にぶつかった。
「ところで、女将さんの名前はなんていうんですか?」
今更ながら聞いていなかったことに気付いたのだ。なぜか、女将さんからも言わなかった。
「私かい? バームっていうんだよ。バームおばさんでいいよ」
セボンは頷いてコリーさんのところへ行こうとしたが、バームが呼び止めた。
「ところで、あんた今晩はどうするんだい?」
「今晩?」
「ここに泊まっていくのかい? ってことだよ」
そういえば、セボンは今まで同じ宿屋に二泊することはなかった。その発想すらなかった。曲がりなりにも、魔王を倒すという目標があったからだ。だが今は、
「お願いします」
そう言って、勢いよく宿屋をあとにした。
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