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13.卒業式
どんな結果であれ、僕たちには平等に春が訪れる。
三月。
卒業式は、合格発表の前日だった。
式のあと、事務連絡を少しだけして、クラスはすぐに解散になった。
写真を撮ったり、思い思いに過ごす。
黒野くんは、誰かに呼ばれて行ったきり、なかなか戻って来なかった。一緒に帰りたかったけど、友だちの多い黒野くんのことだ、きっとすぐには終わらないだろう。先に帰ることにした。
教室。階段。グラウンド。振り返り振り返り、帰っている。
図書室の中にも入った。僕の特等席、一番左端の席。図書室は空っぽで、司書の先生だけがいた。先生と会釈だけして、後にした。もう二度と来ることはないだろう。
僕はきっと、思い出の多い方ではないだろう。友だちとも、もう二度と会うことはない気がする。明日の入試の結果次第では、きっと、黒野くんとも。
未知の魅力は底知れないものだ。新しい世界は、きっと友だちも黒野くんも、僕のもとから遥か遠くへと連れ去っていくことだろう。
そのことを思うと、心が痛む。
玄関ホール。あの時、ここに僕がいなかったら、あの時黒野くんが五分来るのが早かったら、僕は今こんな気持ちになっていなかったのではないだろうか。高校生活最後の帰り道を、大切な誰かと一緒に歩きたい。などと。
僕は幸せ者だ。
幸せが、ありあまる。
校門を出た。相変わらず肌寒い。少しだけ風が吹いている。
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