13.卒業式

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 チョークを取って、書いてみる。  黒野くん  カツカツ、かみしめるような音がした。  黒板に白いチョークで書いた文字は、ところどころかすんで、ぼやけて、まるで、心の中で呼んだ名前のようだった。  カツカツ、浮かび上がる文字は。  黒野くん すきです 「……水口!」  振り返ると、黒野くんだった。ドアのところに立っていた。  黒野くんは卒業式のコサージュをしただけなのに、まるでジャニーズのアイドルみたいだった。僕も、同じコサージュをしているはずなのだが。 「待っててくれたの」 「……うん」  本当はちょっと帰ろうとしたんだけど。それは、言わないでおこう。  僕はチョークを置いて、黒野くんのところに行った。だから僕が黒板に書いたことは、まだ消さずに残っていると思う。黒板のすみ。僕の思い出。  人気者の黒野くんは第二ボタンどころか、ネクタイも奪われていた。 「なんか、すごいね」 「うん。すごかった」  本木くんたちは部活の仲間と遊びに行くのだそうだ。だから、僕は黒野くんを一人占めして帰る。  風が吹いて、日差しが生ぬるくなっていた。僕たちの体と、ゆったりとすれ違って通り過ぎていく。
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