13.卒業式

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 黒野くんは僕のネクタイを自分の首に回して、しめた。  三年間使ったネクタイが、最後に黒野くんの胸元で、その役目を終えるのだと思った。僕の首元はなんだかすうすうする。すうすうする僕を、春風がやわらかく包む。  いつも通りJRに乗って、いつも通りの駅で長話をした。この「いつも通り」も、今日が最後だ。僕たちは明日から別々の人生を歩む……なんて言うと、ちょっと大げさか。  もうでも、僕たちはあとどれくらい、同じ道を歩いていくことができるのだろうか。って、少し思った。  そう思うと、なぜか少し幸せを感じて、少しだけ力がわいた。  カツカツ。  殻の外側を、叩く音がする。  パリン。  殻が割れて、内側にあったものが、にじみ出て、流れ出していく。自然に。  そうなったらもう、自由だ。なんだって、なすがままだ。
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