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初めて一緒に映画館に行った時のことを思い出す。あの時は、急に消灯して真っ暗になって、それからまた突然、目の前のスクリーンが、僕たちを照らし出したのだった。
映画は突然物語が始まる。
人生は、そうではない。
知らないうちに一日一分一秒が過ぎていって、いつの間にか始まって、終わるのだと、思う。いつの間にか夜になり、いつの間にか朝が来るように。
そして僕たちも、そんな風だったらいいと思う。いつの間にか、確かな物語になっていればいいと思う。ゆるぎない、確かな、僕たち二人の物語。
とりあえず、これから行きたいところを話し合った。真っ暗になった天井は、窓際だけがほんのりと少し明るかった。
僕は、天井の向こうの夜空を想像した。
北極星。
黒野くんが、いつか教えてくれたものだ。
僕たちは今、二人並んで、一つの星を見上げることもできた。
抱き合っていても、黒野くんは少しも気持ち悪くなかったし、むしろ誰にも似ていない不思議な匂いが、僕を誘惑して離さなかった。
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