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黒野くんは、そういうタイプの男子だった。先生が注意しても「何がいけないんですか」って言い返せるタイプ。それに黒野くんは小器用で、何でもやってのけたので、無理して練習させる必要もないと、高三の時点ではすでに放牧状態になっていたのだった。
「緊張してんの?」
ぐいっと体をくっつけてくる。ぞわっと、黒野くんの肌感が体操服越しに伝わってくるようだ。気持ち悪い。緊張してるのに、やめてほしい。
でもそれは言えないので、困り顔で笑いかけた。
「うん、緊張する。人前で走るの嫌なんだ」
「そっかあ。別に、大丈夫だよ」
と、黒野くんは言った。
「おれも時々緊張するけど、そういう時は、何も考えないようにしてる。考えたくないことは、考えなきゃいいんだよ」
「えー、そうかなあ、そんな簡単にできるかなあ」
「次だ。じゃあ一緒に走ろうぜ」
と言って、黒野くんはぼくの隣にいた人に無理やり代わってもらった。
「よーい、どん」
走り出す。
隣に並んだのは、最初だけだ。みるみる差が開いていく。
ハードルが終わってはっと前を見ると、黒野くんはもう走り終わっていて、僕のゴールを待っていた。
「速っ、速すぎ」
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