大根の主張

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「昨日言っただろ? 俺は今日から大根だ。今から会社へ行ってくる」 真由子は珈琲を落としそうになる。 混乱し、パニックになった。 「なんで……っ なんでそんな姿に! あなたどうなっちゃったのよ!」 「……大根より勝るものなし。これがオイラの出し……俺の出した答えさ」 オイラ……? いま、オイラって言った? 「ついていけない……」 「オ……俺は今から会社へ行ってくる」 夫は、チョロっと生えた右手にネクタイを持っている。 「悪いが、ネクタイしてくれないか?」 ネクタイ? 大根にネクタイですって? するんと伸びた首も腰もないような身体にどうやって巻き付けるの? 「ここら辺が首なのさ。オイラにしてよ」 ぴょんぴょんと飛び跳ねて首らしき部分を曲げる様子を見せる夫。 オイラ……! 首らしきっ! 真由子はそろそろと近づき、ネクタイをそんな感じのとこに巻き付ける。 「じゃあ、オイラ行ってくるね!」 「ち、ちょっと待って!! 朝ごはんは!?」 「オイラのご飯は光合成さっ。歩きながらいただくよ!」 そう言い残して夫は元気よく扉を開けて出ていってしまった。 あなた…… それじゃ真っ裸にネクタイじゃない……。 いったいどうしちゃったの? 私は夢を見ているの? 夫がほんとに大根になるなんて。 * 「ただいま」 いつもより早く帰宅した夫に真由子は詰め寄らずにいられなかった。 「おかえりなさい。あなた、よくそんな格好で会社へ行けたわよね。みんななんて言ってた?」 「ん? クビって」 「ええっ!!」 「大根に営業は出来ないって。よかったよぉ。早くに解雇する決心がついてくれてさー。オイラはほっとしたよ〜」 クビになっちゃってどうするの! その問に彼はこう答えた。 「オイラ、YouTuberになる」
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