葛木(前編)

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葛木(くずき)のこと、高校の時から好きだった。その……恋愛対象として」  ……嘘だろう。  いや、でも。普段から冗談を全く言わないこいつが、ふざけているとは思えない。  高校の時からって、ほぼ十年だぞ。  そんなに長い間俺に片想いしてたっていうのか?  そもそも、男が好きだったのか? 「だから正直……彼女と別れたって聞いて喜んでる。ごめん、嫌な奴で」  彼女に振られたと言った時、今まで通り聖は笑って「すぐ次ができるよ」と言っていた。  あれは嘘だったのか……ショックなような、悪いことしたような変な気分だ。 「今まで葛木に彼女ができるたび落ち込んで、別れるたび喜んでって……ずっと繰り返してたんだ」  聖の声は可哀想なくらい震えている。  俺の中にはただひたすらに困惑だけがあった。男に告白されるというシチュエーションが自分に降りかかるとは思ってもいなくて、現実感があまりない。 「えっと……俺と付き合いたいってこと? 恋愛的な意味で」  頭の整理が追いつかないので念の為確認すると、聖はこくんと頷いた。 「ちょっとでも可能性、ないかな……葛木の嫌がることはしないし、頑張るから」  俺の答えを待っている聖は泣きそうなほど目元を赤くして、ぎゅっと拳を握りしめていて痛々しいほどだ。 「いや、頑張るも何も……普通に無理だろ」  思ったことがそのまま口から出ていた。  いきなりそんなことを言われても、聖は友達だし大体男を恋愛対象で見ることなんてできない。  傷つけたいわけじゃないが、無理なものは無理なのだ。
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