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(バレてる)
武瑠のいる机を一瞥する。何人かに囲まれて笑顔で彼は談笑していたが、幽子には武瑠の表情が貼り付けた笑顔にしか見えず、胡散臭いことこの上なかった。
(器用な人だこと。私にはできっこないな)
人の良さそうな笑みを浮かべて、自分の思ってないことでも相手に伝えて、円滑にコミュニケーションを取るのは、できない訳ではないが、ひどく気力を削がれる。それを学校にいる間、ずっとやってのける武瑠は世渡り上手だと思う。幽子も入学当初は孤立しないように、一緒にトイレに行ったり、お揃いの文房具を持ったりしていたが、だんだん自分のやってることに嫌気が差してしまい、早々にクラスから浮いてしまった。
「実はあの人、先週転校してきたの。親御さんの都合で」
紫は眉を顰める。
「妙な話ね。偶然とは到底思えない。まるでゆうちゃんを追いかけて来たみたい」
幽子はぎくりとしたが、何でもない風に嘯いた。
「それはいくらなんでも」
(ばっちり当たってるけどね。ゆかりん鋭い……)
流石にひとつ屋根の下で暮らしてるとは、例え天地が裂けようとも言えない。
「ゆうちゃんはあんまり近づかない方がいいと思うよ。相性悪いんだし」
心なしか紫の声が刺々しい。紫のそんな姿を見るのは珍しかった。
「……うん。あの人の近くにいたらゾワゾワするのよね。相剋だから仕方ないにしても、何かチャラそうで個人的にも苦手なの……」
紫の顔が穏やかになった。幽子の頭を優しく撫でて髪をすく。
「ゆうちゃん社交的な人苦手だもんね。チャラいかどうかは分からないけど」
「誰にでも好かれる人は、人によって態度をコロコロ変えてるから信用できないよ」
きっぱりと言い放つ幽子。そんな人間は避けるに限る。昔幽子をいじめてきた人種だからだ。
「確かに何考えてるか一番分からないもんね。にっこり笑って人を貶めるのはあんな人が多そうだし」
「霊力を引っ込めてくれたことは感謝するけど、ね」
「え?なんて?」
「ううん、何でもないよ」
溢れ出す霊力のせいで分からなかったが、幽子に害意はないみたいだし、ぶっきらぼうだけどたまに言動と行動がちぐはぐだ。そのせいで幽子の調子は狂いまくっていた。
(少なくとも悪い人ではないわ。苦手だけど)
夏休みが近いのが少し憂鬱だ。休みに入ると毎日家で顔を突き合わせることを考えて幽子はひとつ、ため息をついた。
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