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ぼんやりと考え事をしながら顔を洗い、そのまま一階に降りて台所へ向かうと兄が朝食を作っていた。
「おはようございます………って颯太?」
「おはよう。弁当の卵焼き焼いてくれ。卵は溶いてあるから」
「うん、分かった」
彼女の家では、家事は当番制である。今日は兄が当番らしかった。彼女言われた通りに卵焼き用の四角いフライパンを熱してもう一度溶き卵を軽くかき混ぜる。
「あんまり混ぜるとふわふわにならないぞ」
早速彼から小言が飛んできた。颯太は最近何かにつけて幽子に突っかかる。ただ兄貴面したいのか、言いたいこと言いたいだけなのかは定かではない。何せ颯太は17歳、幽子は15歳。お互い思春期真っ盛りである。
「はいはい」
「はい、は一回でいいだろ」
「二つ返事したのよ。文字通りにね」
幽子は溶き卵を少しずつフライパンに流し、様子を見てくるくると巻きながら颯太を睨む。口で勝てると思うなよ、とその瞳が訴えていた。
「お前生意気になったな」
「褒め言葉をありがとう」
不機嫌な表情を引っ込めてにっこりと颯太に微笑みかける。颯太の眉間の皺がますます深くなった。
「できたよ。冷ましたらお弁当箱に詰めるね」
「ああ、頼む」
颯太は大きくため息をつく。颯太は口で幽子にほとんど勝てたことがない。だが言い返すと倍以上に返されると分かっていても突っかかることは止められない。
幽子のことは嫌いだ。昔から。両親に期待されてないからといっても自由過ぎる。近くの山で遊んだついでにカエルやらバッタやら生き物を採取しては両親の部屋に持ち込み悲鳴を上げさせてたり、勝手に風呂場で酸素系漂白剤を洗面器にお湯を張った中に入れ、その酸素で線香がどれだけ燃えるか実験してたり、父のウイスキーをくすねてカエルに麻酔をかけて庭で解剖していたりと妹のいたずら行為は枚挙に暇がない。
颯太は曽祖父の生まれ変わりと称されるほど霊力が高く、当主になるべく自由な時間はほとんど奪われ勉強だけでなく武道の稽古をしたり霊力の扱いを学んだりしている。そんな中で妹は両親に大して怒られもせず、遊んだりしても咎められることはない。
気に入らない。もっと遊びたかったのに。そう反抗した時期もあった。しかし両親は颯太のためだと言って自分達の敷いたレールの上を走らせたがる。今では何となく諦めはついたが、それでも妹に対してのこのもやもやとした感情は抑えようがない。
「朝飯できたから並べておくぞ」
「分かった。ありがとう」
幽子は両親と兄と自分のお弁当箱に卵焼きとほうれん草のおひたしや鮭の切り身などを慣れた手つきで詰めていく。梅雨がもうすぐ明けるこの時期はお弁当が痛みやすいのでおかずとご飯を全部詰めてから冷蔵庫に入れる。冷蔵庫の扉を閉めたところで両親が眠い目を擦りながら来た。
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