滲み出る霊力

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俺は人間関係に不自由はしなかった。 笑っていればいつの間にか人が集まってきたからだ。 でも心を通わせることは少ない。 人が周りにいるほど心が離れていく。 誰も俺を気にしない。 毎日違う顔の女子が話しかけてくる。 決まって皆少し俺が微笑んだだけで顔を赤く染める。顔なんていちいち覚えるのも飽きた。 つまらない、つまらない。 手伝いで出雲大社まで来た。 珍しく人手不足で俺に指名がきた。 妙だと感じたが、理由を聞かされて納得が行く。 早過ぎるとは思ったが、それは承知の上らしい。 目を合わせても照れない奴が八足門にいた。 照れるどころか怯えていた。 初めて違う反応をされて少し興味がわいた。 初めてその少女をまじまじと見る。 肩口までの長さの艶々した黒髪。確かボブとか言ったか。そんな髪型をしている。 墨色の瞳は吸い込まれるようだ。今は怯え一色だが、それでも美しいに違いなかった。 薄い唇は血の気が少ないようで色が少々悪い。ひょっとしたら単に具合が悪いだけかもしれないが。 ちょっと悪戯をしてみよう。怖がらせてみよう。悪戯心が鎌首をもたげた。 俺に殺されるか、監禁されるかどちらが好みだ? すると少女の霊力が一気に周りに拡散した。 これが噂に聞く大国主命の巫女か。 俺よりも高い霊力がまとわりついてきた。 このままでは少女が危ない。 手を掴むと震えていた。 そんな顔をさせたくはなかったのに。 俺は霊力を集中させ、意識と霊力を斬った。 斬るというよりは根絶させたと言う方が正しいかもしれない。 少女は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。 思わず支えた。顔が青白い。あれだけ霊力を出せばそりゃ体力も消耗する。 厄介な相手だ。 それでも何事もなくて本当に良かったと思う。 送り届けなければ。 少しくらい抜け出しても咎められはしないだろう。第一この状態を放置する訳にはいかなかった。 社務所でお守りを見ている少女の連れを見つけた。笑顔で声をかけると警戒して睨んできた。 この少女も担いでいる少女と同じだ。皆と違う反応をしている。 もっとも、彼女の場合は俺の霊力に警戒しているのだろう。彼女自身からも霊力を感じるので同じ霊力持ちだ。気質は水行か。 担いでいる少女と相性が良いと分かり、俺は安堵した。バスまで担ぎ、座席に下ろして下車する。 運命は回り出した。俺が彼女を最初に見つけた時から。彼女を止められるのは俺しかいない。俺は天野家次期当主で、金行を司りし者。彼女の憂いは何としてでも祓おう。 それが俺の生きる道だ。
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