教室の中で

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48メートルがどれくらいの大きさかは分からないが、今のようにショベルカー等の重機がない時代に、どうやって建てたのだろうかという疑問が真っ先に浮かぶ。 「そんな大きな建物が古代にあったの?東大寺よりも大きいじゃない。古墳時代に技術者でもいたのかな」 ちなみに東大寺大仏殿の高さは47メートルだ。1メートルしか違わない高さに何か意味がありそうだが、それを裏付けるものは思いつかない。まだまだ勉強不足である。 「何で古墳時代って思ったの?」 「銅剣とか銅矛が扱われるのは古墳時代だから。少なくともその時代から古墳や銅鐸(どうたく)も作られているから技術者はいたと思う」 「飛鳥時代とかかもしれないよ?」 どうして飛鳥時代か一瞬分からなかったが、すぐにある理由を思い出した。 「あー、大陸文化を取り入れ始めた時代だから? でも仏教伝来した時期だし神社とか建てづらかったかもしれない。物部氏が負けたから」 「一理あるね……」 紫との議論は弾む。幽子の友達は紫だけだ。人間関係に大して興味を持てず、好奇心のままに本を読んだせいでクラスで浮きに浮きまくっている幽子は当然友達をたくさん作れる性格ではない。考え事をしてボーッとしたり、興味をそそられないことは極端に遠ざけてしまう。だが紫はそんな幽子を理解していた。家庭環境もよく似ている二人は中学に入学した時から意気投合していた。 そして、これは幽子の気のせいかもしれないが紫と目を合わせると何だか落ち着くのだ。きっと紫は凪いだ海のように穏やかな雰囲気を持っているのだろう。 まだまだ話し足りなかったが予鈴が鳴った。紫がちらりと恨めしげに時計を一瞥して再び幽子に向き直る。 「あ、チャイム鳴った。ゆうちゃんまた後でね」 「うん」 辺りを見渡すと他の生徒たちがぞろぞろと自分の席に向かい、椅子を擦る音がしばし教室を支配する。さらに数分たつと担任が入ってきたので、幽子は机の上にある物を鞄にしまった。
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