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序章
A.D.2070。
20世紀末から21世紀にかけて、鋭い牙を剥いた地球温暖化の波。それはいつしかうねりを増し、幾つもの国がなすすべもなく海の底に沈んでいった。
そればかりではない。
中南米に近い太平洋、あるいは日本の三陸沖から東の地点でも海底火山の爆発や海底内のプレートが地すべりを起こし、日本を初めとした東南アジア諸国は、最大級の地震と津波に見舞われていた。その上、欧米では起こりえなかった地震が各所で頻発し、世界は徐々に混乱の様相を呈していった。
そこにもって、欧米や中国山間部などでは、世界規模の歴史的火山噴火の余波を受け、地球が表面及び水面下で怒りを爆発させたかのような天変地異が続き、人類は住む場所を求め大移動を始めた。限られた大地には数億もの人類が押し寄せ、我先にと土地を確保しようとして争いが頻発した。
その間、地球の温度上昇は、火山灰で地球が覆われる中、一旦収束したかに見えたが、太陽の紫外線が差し込むにつれ、その上昇率は悪化の一途を辿ったのである。
2080年。
10年に及ぶ第3次世界大戦が勃発。
米国とロシアはアラビア周辺で代理戦争を繰り広げ、周辺国の死者は8割という惨事となった。EEC合衆国にはアラブ流民が入国したが、アラブ民族同士の争いは止むことが無く、EEC合衆国は今や死地と化していた。
また2086年、戦争を終わらせるべく、核ミサイルが北ロシアと北中国、EEC合衆国、北米アメリカから発射され、人類の約3分の2と人類が住める環境の地の約半分を放射線に晒すという最悪の結果が待ち受けていた。
そうした間にも、北アフリカに端を発したHIVウィルスから派生したHIVⅡウィルスが猛威を振るい、次々と人命が奪われていった。HIVウィルスと違いHIVⅡウィルスに対する特効薬はなく、座して死を待つのみといった状況下の中人々はパニックに陥り、世界規模で集団自殺やテロ行為さえもが続発し世界中を震撼させた。
結果、地球の人口は約5億人にまで減少し、人類は滅亡の危機に瀕していたのである。
2090年。
どちらとも勝敗のつかぬまま、10年に及ぶ世界大戦は終結を迎えた。
勝戦国や敗戦国が入り乱れる中、各国のトップは違う視点から今後の政を見定めていた。
そして、一つの方向性が提案された。
国の垣根を越え、皆が協力し合いこの危機を乗り越えようというものである。
歴史的瞬間。世界が一つに纏まった瞬間である。人口激減の問題を受けた各国は、戦争を止め、現在の人口を維持することを最優先としたのだった。
ここに、地球政府が誕生した。
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2120年。
地球政府では旧各国を自治国として認め、人種間及び宗教間での争いを禁じたが、争いの火種が無くなることは望めず、各国は自治国軍隊と警察府を組織した。
そうした中、世界医学だけは革新的に発達し、個人の細胞から作りだした人工臓器を様々な身体の部分に埋め込む技術が確立された。
個人細胞から作りだした筋肉を埋め込み義体化した人間たちは、注射による義体化部分の油を指すことと、健康診断でのオーバーホールのみ。心臓までもが義体化された人類も少なくなかった。
これらはマイクロモビルと呼ばれ、サイボーグに属する人間たちとして新たに存在することとなった。
それは、スポットブースターと呼ばれる機能増幅器で電気信号を脳に送ることによって電脳化し、身体はオール義体というマイクロヒューマノイドとは一線を画していた。
スポットブースターの誕生により、マイクロヒューマノイドが人型ロボットという概念は今や過去のものとなっている。
マイクロモビルもマイクロヒューマノイドも、環境汚染化が進む中その身を守るために必要な技術とされ、瞬く間に地球上に広がった。
日本は第3次世界大戦とその後の大地震及び火山噴火で本州の殆どが津波を被り、また、東日本から東海、四国と九州の南側が核戦争による放射線に晒され、居住できる土地の約3分の2を失った。1億人いた国民は、戦争や災害が原因で次々と犠牲者が出た。漸く世界が落ち着き日本自治国となった今、人口は半分以下の5千万人ほどに減少するという結果が齎された。
現在居住できるのは、九州及び本州の旧日本海側と旧北海道のみ。日本に四季があった頃は冬場に雪の積もる地域だったが、地球温暖化の影響を受け、今では雪も降らない。
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旧北日本日本海側に位置する伊達市。其処にある東日本警察特別部隊支援班、通称、ESSS、イースリーエス。
SIT、SAT、ERTと並ぶ日本自治国警察府の主要機関である。旧北日本にある伊達市の警察特別部隊支援班は東日本を管轄し、西日本を管轄しているのは、旧山陰は毛利市にある西日本警察特別部隊支援班。通称、WSSS。
伊達市と毛利市は、20世紀までは冬になると雪で閉ざされた世界が広がっていたが、地球温暖化の波は顕著だった。両都市ともに冬に雪が降ることもなくなり、日本の四季は今や完全にその姿を消した。
そして、大地震や火山噴火といった天災及び朝鮮半島を初めとした欧米からの住民大移動を発端とした核戦争により、今や日本の太平洋岸は、住むべき場所としての機能を失った。
日本では、マイクロモビルやマイクロヒューマノイドの研究が追いつかず、一般国民が交通事故などでパーツを損壊した場合は、個人細胞から再び人工臓器を作り出し、身体に戻すという方法が採られていた。その作製期間は半年とされ、その間、入院が必要とされた。
ところが心臓だけは、半年待っていられない。それは即ち、死に値することを意味していた。心臓を患った人々は日本自治国に対し心臓の人工臓器を作製しパーツとして組み込むことができるよう、デモ行進を繰り返したが、自治国内閣府では、この案件を承認しようとはしなかった。
日本自治国内では、研究の一環として警察関係者は心臓を義体化し、事件に遭遇し被災した場合は、当該関係者は予備のパーツを組み込むこととされていたが、皆が皆、それに追従したわけでもない。
特に、麻薬取締の囮捜査に就く職員や、中華系マフィア等に潜入する職員は、潜入する際にCT検査される場合が多く、心臓を義体化していれば囮としての役目が果たせないというジレンマの中、決死の覚悟で悪の巣窟に入り込むスパイ任務を担うのだった。
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