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教室から廊下に出ようとすると、鈍い衝撃が走ってノートが何冊が床に落ちる。
「ごめん、ノートで前が見づらくて……!」
声を張り上げて、とっさに早口で言う。
「んっ? あぁ、オレなら全然、大丈夫だ!」
そう言いながら目の前にいるクラスメイトの男子が床に落ちたノートを丁寧に拾っていった。
この男子は俺と同じクラスの星野翼。
俺とは正反対で明るいキャラで、どっちかと言うとうるさい。
毎日、誰かしらと話していては教室中に聞こえるぐらい大声で笑っていたり、たまに学校中に響き渡るぐらいに叫んでいたりもする人物だ。
そんな彼だが、こんないつも誰とも話さないような俺ともたまに話してくれて、俺にとって彼の存在はとても眩しかった。
「それにしても、そのノートの山は先生に頼まれたのか?」
ノートを拾い終えた星野が俺に話しかける。
「あぁ、ちょっとな」
「そうか……それならばオレも運ぼう! 次の用事までまだ時間があるからな」
……手伝ってくれるのか、すごく助かる。
「いいのか? じゃあ、ここから取って」
俺はノートの山を少し前に出す。
星野はその山を一気に半分ぐらい持っていった。
……そんなに運んで大丈夫なのか?
拾った分は星野が持ったままだし……。
「重くないのか?」
「あぁ、オレにかかればこんなのどうってことない!」
そう言って星野は自慢げな顔をする。
「……そうか」
「あっ、そうだ。少し聞いてみたいことがあるんだが……いいか?」
星野が何か思い出したかのように話を切り出す。
珍しい、普段なら俺じゃなくて他の人と話しそうだし。
……星野の聞いてみたいことも気になるし、とりあえず話を聞いてみるか。
「あぁ……それでなんだ?」
「学校の噂話でな……」
噂話……いくつかは聞いたことがあるが、どんな話だろう?
そう疑問に思いつつも、星野が珍しく声を低くして雰囲気を出してから話し始めた。
「この近くに住み着いている尻尾の短い猫がいるんだが……その猫に親切にしないと、ひどい目に遭うらしい。二十年ほど前にここに通っていた男子高校生が次々と行方不明になってな……。その数日前に尻尾の短い猫が傷を追って倒れて死んでいるのが見つかってな。そこには、その男子高校生たちの髪の毛が見つかっていたことから虐待に遭っていたんじゃないかって……。十数年前にも同じようなことが遭って……」
……なるほど、でも――。
「その猫が死んでいるならその噂は本当じゃないんじゃないか? 死んでいるはずの猫がいるっていう話になるから」
「だーかーらー、そうではない!」
そう星野が大声で言う。
……っ!? 鼓膜が破れるかと思ったぞ……。
「もしかしたら猫のゆ、幽霊となっているかもしれないだろう!?」
星野がガタガタと震え始める。
そのせいで星野が持っていたノートの山が崩れそうになって、俺は慌てて自分の持っているノートの山を片手で持って、もう片方の手で星野のノートの山を支えた。
でも、これで何かわかった。
おそらく、星野は幽霊などの怖いものがが苦手なのだろう。
だから、心配になって俺に聞いた……ということだろうな。
「星野の言いたいことはわかった。俺はそういう噂話は信じていない。幽霊も自分の目で見たことがないから信じていないな。もし、その話が本当だとしても普通に生活していれば問題はないだろうし」
まぁ、星野がいつも普通の生活をしているのかって言われると正直、わからないけど。
「そ、そうか……。すまないな、こんな話しさせて。この前、この話で盛り上がっていてその……怖くなってしまってな。少し安心した、ありがとう」
「いや、俺は話を聞いて、自分の考えを言っただけだから……」
そんな雑談をしていると、職員室が見えてくる。
俺と星野は担任の先生の机の上にノートを置くと、職員室を後にした。
「ありがとう、助かった」
「オレの方こそ話を聞いてくれてありがとな」
「あぁ、それじゃあ。また……」
そう言って、俺と星野は別れた。
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