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離した手
「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……!」
冬の風吹き荒ぶ小学校の屋上。
手にカッターナイフを構えながら、涙を浮かべ、ただひたすら謝り続ける『君』。
氷の様に冷たい風が、『君』の長くて綺麗な髪を――その髪に結ばれた真っ赤なリボンを、乱暴に揺らしていく。
「良いんだよ。悪いのは君じゃない」
――だから、さぁ。そのナイフで、僕を切り裂いてくれ。
君が助かる為には、それしか方法は無いのだから。
「ごめんなさい……優君……!」
彼女の刃が僕の頬を切り裂いた――その瞬間、僕の心が大きな悲鳴を上げた気がした。
僕を傷付けて助かった筈なのに、そこに立ち尽くし、まるで壊れたテープレコーダーの様に、ずっと「ごめんなさい」を繰り返す彼女。
(君は助かって……この地獄から抜け出せた筈なのに……どうしてそんなに泣いているの?)
君の心の痛みに比べたら、僕のこの傷の痛みなんて何とも無いのだから。
だから、ねぇ――、
「笑ってよ、舞ちゃん」
僕が笑ってそう告げた瞬間、大きな声を上げて泣き出す彼女。
そうして、彼女はカッターナイフを自分の胸に押し当て――。
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