忘れじの遠い眼差し

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それからは、週末の度に祖父母の家に泊まる様になった私と舞ちゃん。 だが、別段寂しいと感じることはなかった。 きっと、気を利かせて様々な場所に連れて行ってくれた祖父母や年上の従姉妹のお陰だろう。 特に、従姉妹の晴子姉さんは、私と舞ちゃんを様々な場所に連れて行ってくれた。 遊園地やら大きなデパートやら、ほぼ毎回、自分の運転する車で何処かに連れて行ってくれていた様に思う。 姉さんが来る度に舞ちゃんは目を輝かせていたし、私も、次は何処に連れて行ってくれるのかと、とても楽しみだった。 そんな晴子姉さんが1番よく私達を連れて行ってくれたのが、自分のバレーボールの試合だ。 晴子姉さんは190近い長身に、抜群の運動神経をしており、社会人バレーボールチームのエースだったのだ。 まぁ、難点はド近眼だったことなのだが、その辺りはスポーツ用の眼鏡でどうにかしていたらしい。 試合の度に連れ出される私と舞ちゃん。 だが、私達の楽しみは、実は姉さんの試合とは別の所にあった。 「ねぇ、優君?今日は何処になるかなぁ?」 「うーん、養老乃瀧はこの前行ったから、江戸一じゃない?」 そう、私達の楽しみ、それはーー試合後の飲み会だった。 今ほど居酒屋や飲み屋が若者……特に子供にとって身近ではなかった当時は、姉さんの残念会やら祝勝会で行ける居酒屋で出されるメニューは、大変なご馳走だったのである。 なので、晴子姉さんから試合の見学のお誘いがあると、私と舞ちゃんは即飛び付いた。 そうして、試合の間中、よくその日の飲み会は何処で開催されるのかを予想しあったものである。 ちなみに、試合が長引いた関係等でごく稀に飲み会にいけない日もあったが……そんな日は、私と舞ちゃんのテンションは分かりやすくただ下がりになり、酷く落ち込んでいたらしい。 「飲み屋目当てって、もう凄く分かりやすい子供らだったよ、あんた達は」 後の晴子姉さんは、笑ってそう言っていた。 ただ、晴子姉さんだけではなく、祖父も色々な所に私と舞ちゃんを連れて行ってくれた。 (ちなみに祖母は自宅で浪曲を教えていた為、余り外出出来なかった) だが……祖父の場合は、仕事柄なのか、連れて行ってくれる場所が置屋さんが多かったのだ。 綺麗な着物を着た華やかな芸者さん達に囲まれ、舞ちゃんはそれはもう目をきらきらさせていたが、女性ばかりのその空間に、私は微妙な……むず痒い様な居心地の悪さを感じており、借りてきた猫の様に大人しくなっていたのをよく覚えている。
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