1819人が本棚に入れています
本棚に追加
「止めるんだ、舞ちゃん!!」
慌てて跳ね起き、ハッとする私。
枕元の時計を見てみると――時刻は深夜の3時55分。
(どうやら、夢を見ていたらしい……)
昔の、悪い夢を。
こんな夢を見たのはきっと、彼女――『岡部 舞』の訃報を、前日に聞いたせいだろう。
(……君は、怒ってるのかな。忘れるな、って言いたいのか……?)
忘れろと言われたって、忘れられる筈ないじゃないか。
(……あの薄暗い、墓標の様に団地ばかりが立ち並ぶ町で……君は、たった1人の理解者であり、幼馴染みだったのだから)
でも……それでも、君が不安だと言うのなら……私は、もういなくなってしまった君に何をしてあげられるだろう。
そこまで考えて、私はふとスマホに目をやった。
(ああ……そう言えば、君は本を読むのが好きだったな……)
なら、紙の本は書けないけれど――このスマホで、君との日々を記録しておくのも悪くはない。
(スマホだったら、私が死んでも、書いた記録は残るしね……)
よし、そうしよう。
私は、適当に良さげな無料小説投稿サイトに登録をすると、早速、書き始める。
タイトルは、『いつか、『君』を忘れない日の為に』。
(いつか、と、忘れない日の為に、なんて随分矛盾してるよな)
まるで、いつか、私が君を忘れてしまう日が来るみたいだ。
そんな日は、絶対に来ない――いや、来てはいけないのに。
そう……彼女を忘れないこと。
それが、私への罰であり、償いなのだ。
「だから……私が、君を忘れるなんて、絶対に有り得ないんだよ、舞ちゃん……」
私は自分に――そしてあの世にいる彼女に言い聞かせる様にそう告げると、煙草をくわえ、火をつけた。
胸に溜まる重い気持ちと一緒に紫煙を吐き出すと、私は過去に思いを巡らせる。
大切な彼女と出逢い、別れた、遥か遠い昔の日々に。
――そう、これは、本当に大切な物が分からず、手放してしまった、愚かな男の物語であり、備忘録だ。
忘れてはいけない『痛み』を、決して忘れない為の。
そうして、もう1度――前を向いて歩き出す為の、気持ちの整理の為でもある。
過去は……振り返る度、気持ちを、心を、ずっと昔に押し留めようとする。
でも、未来は、心が追い付くのなんて待ってはくれないのだ。
だから、『書く』のである。
自分の心を、気持ちを――自分の中の時計の針を、1秒でも前に進ませる為に。
そして、もし、これが誰かの目に触れることがあるのなら……
知って欲しい。
心にどんなに傷を負っても、人は生きることが出来ると。
傷の痛みに、背負った重さに、負けそうになる日の方が多いけれど。
それでも、『命』さえあれば。
生きることを諦めなければ、光射す未来に出逢えることがある、と。
そう、知って欲しいから。
綺麗事ではなく、私がそうだった。
だから、私は、敢えて書き……残していくことにする。
自分の、これまでの半生を。
そうして、もし、同じ様な経験に傷付き、悩んでいる人達がいるのなら、気付いて欲しい。
先ず、あなた達は『今を生きている』……それだけで、充分に頑張っているのだ、と。
これからも頑張るのは、大変かもしれないけれど、こんな私ですら、救われたのだ。
だからきっと……いや、絶対に、あなた達にも救いの手はある、と。
信じて欲しい。
だから、私の『闇』を敢えて書き残す。
誰かの『光』になれると信じて。
誰かが、私の闇を糧にして生き抜いてくれることを、心から願って。
最初のコメントを投稿しよう!