忘れじの遠い眼差し

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次の日から、ものの見事に私を取り巻く世界は一変していた。 「猿ガキ~♪猿ガキ~♪」 歌いながら追い掛けてくる、会った事もない小学生。 「あいつだってさ!やっちゃえやっちゃえ!」 行きなり小石や砂をぶつけて来る顔も知らない子供達。 極めつけはーー 「おはようございます」 私が園の部屋に入った瞬間、ざわめく同じ組の子供達。 「あ、優君が来たよ!」 「皆、話し掛けたら駄目だよ!」 そうして、皆、まるで、私が罪人であるかの様に接し始めたのだ。 この様に、一晩にして、私を取り巻く世界は地獄に変わっていた。 ただ、唯一変わらないのはーー舞ちゃんの優しさだけだった。 憐れみなのか、責任感なのか。 日増しに激しさを増す子供達の嫌がらせの中……彼女だけは、ずっと、変わらぬ優しさを、私に与え続けてくれていた様に思う。 「優君。私のせいで、本当にごめんなさい」 傷だらけになって帰る私の姿を見る度、そう言って、よく私に頭を下げていた舞ちゃん。 でも、その都度私は、「舞ちゃんのせいではない」と彼女に言い聞かせて続けていた。 そうしないと、彼女の心が何時か壊れてしまう様な気がしていたのだ。 だが、彼女の励ましや優しさも虚しくーーこの嫌がらせは、私が転校する小学6年生の3学期まで、決して止むことはなかった。 寧ろ、小学校に上がってから、嫌がらせの激しさは、より増したのである。 そうして、その時には、子供だけではなく、大人からも嫌がらせを受ける様になっていた。 閉鎖的で、排他的な地域だったから、きっと私は……街全体の人々の良いサンドバッグだったのだろう。 先生が電話等で呼び出され教室を出た時等は、クラスの男子達が全員で殴りかかって来たことがある。 先生は、私への嫌がらせに気がついていた。 でも、見てみぬふりをすることを選んだのだ。 いや、それどころか嫌がらせに荷担した先生もいる。 ある日、私が忘れ物をしてしまった時のこと、 「直ぐに取りに行きなさい!」 問答無用で、私にそう命じる先生。 ただ、その日は台風レベルのどしゃ降りの雨で、傘を持って来ていなかった私は傘を借りたい旨を申し立てた。 だが、先生の答えは、とても冷たいものだった。 「急いでるのよ?傘なんて差してる暇ないでしょう?さぁ、早く走って取りに行きなさい!!」 先生のあまりの剣幕に、言われるがまま教室を飛び出し、忘れ物を取りに帰る私。 往復でずぶ濡れになったが、学校に着いたからと言って、体を乾かしたり、況してや、濡れた頭や顔を拭かせて貰えるなんてことはなく。 ずぶ濡れのまま長時間授業を受け続けた私は、翌日、倒れて高熱を出した。
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