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ある朝、なにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で1匹のお嬢様に変わっているのを発見した……。 私は豊かなレースが天蓋(てんがい)から落ちる豪華なベッドの中で、ぷるぷると首を振った。 いやいやいや、グレゴール・ザムザごっこしてる場合じゃないしっ! 柔らかに波打つ金色の長い髪、ネグリジェの上からも分かるバーンとした胸と細いウエスト。これは明らかに私の持ち物ではない。 「……きっと夢だ 」 その呟いた声にギョッとした。透明感のある澄んだ声は、聞き慣れた自分の声とは全く違うものだったからだ。 どうなっちゃってるの? 真っ白で陶磁器の様な細い足を伸ばして、ベッドから抜け出す。そして脇にあった大きな鏡に写った自分の姿を見て、思わず悲鳴をあげてしまった。 「ディーナ・ペアーレモーネっ ?!!」 どうしてっ? まさかっ?! そこには、私のこよなく愛する乙女ゲー、『人魚姫は恋をする 』に登場する主人公(ヒロイン)のライバル、もとい、悪役令嬢の姿があったからだった。 ******** 『人魚姫は恋をする 』ーーー 『姫恋』シリーズの第2作目、略して『魚恋(うおこい)』(魚屋じゃないんだからと思っているのは私だけじゃないけど、そこもまた愛しいと思ってるのも私だけじゃない )。 舞台は光の国、リュスインテシテ王国。決してどこかの巨大宇宙人の星と同じとか、言ってはいけない。 そこで暮らす主人公(ヒロイン)のエマは、空の娘(所謂、風の精の親玉ね )のお慈悲で、人間に生まれ変わった人魚姫。勿論、ゲームの顔のメイン攻略キャラは王子様のクラウス様なのだけど、そこは乙女ゲームだから攻略対象は王子様でなくても構わない。ただ、18歳の誕生日に想い人とハッピーエンドを迎えないと今度こそ海の泡にされてこの世から消えてしまう……。 何だかな、結局海の泡なら、神様も魔女と同じじゃないのという突っ込みは無し。人数がいる分、生き残るチャンスが増えるというご配慮かも知れない。 兎に角、近衛隊長のアドルフ様、5番隊騎士団隊長のヴィクトル様、身分を隠してお城の給仕室に出入りしている王弟のフェルディナン様、隣国の王子であるエドヴァルド王子……。 他にも魅力的な落とし甲斐のある……、いや、素敵なキャラクターが沢山登場し、『魚恋』は二次創作も盛んなコンテンツだった。 二次創作のカップリングで、やはり多かったのは、推しキャラ×主人公(エマ)や、推しキャラ×夢主のNLだったけれど、私は断然っ、【アドルフ×クラウス】のBLを推していた。 (あるじ)に付き従う、剣術に長けた騎士のアドルフ様と、その彼に守られるべき、たおやかな雰囲気のクラウス様のカップリングは、幸せなことにBL界隈では王道だった。 だってこの人達!、いつも2人でいるし、何やら2人でコソコソしてるシーンも多くて怪しいんだものっ!グッジョブ、運営!! そして何より、私がアド×クラに一気に転んだのは、アドルフ様の傍で花の様に微笑むクラウス様の、夜会でのイベントの1枚絵に一目惚れしたからだった。 長めの金髪をほつれ気味に1つに結った色っぽいクラウス様を見つめる、栗色の短髪を夜会用にセットしたアドルフ様。あまりの2人のお姿の神々しさに、私はこのシーンが印刷されたクリアファイルを額に入れ、部屋に飾って毎日拝んでいた。 このゲームの真のヒロインはクラウス様だわと同担のコ達と語り明かし、アド×クラ本の同人誌を読み耽り、自分でも何冊も本を出した。 そう、私は、アド×クラ推しの腐女子だったのだ!
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