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次の日、早速、ギールモーネ王家からの使者が我が家にやってきた。
父であるペアーレモーネ公爵は、「分かりました 」とだけ言って書状を受け取った。
昨夜から、昨日の出来事をアドルフ様から聞いた父は、溜め息を吐くばかりで、私には何も言ってくれず、部屋にお篭りになられていた。
確かに相談も無しにプロポーズをお受けしてしまった事は申し訳無かったと思っている。だけど、兄の為、家の為にもそんなに悪いことをしてしまったとは思えない。
「お父様、ごめんなさい。でも、私は…… 」
「いいんだよ、ディーナ。お前が本当にクラウス殿下のことをお慕いしているのなら 」
お父様は、怒っている訳では無かった。
「殿下が、ペアーレモーネ家の為とか、アドルフの為とか、取引を持ち掛けてきた訳ではないんだね? 」
私はコックリと頷く。
「そうか。そうだったら、私は殿下の事を許す気は無かったよ 」
寂しそうに微笑むお父様は、「さてと 」と書状を指でトンと叩き、中身を説明してくれた。
「正式に王家からの婚約をお受けする為、明日にでも私とディーナで登城せよとのことだ。貴族会議で認められるのはその後となることだろう。まぁ、お前なら異議は出まい。それから、未来の王妃として、これからは妃教育の為にディーナは城に通うこととなる 」
「はい 」
そうなる事に、大体想像は付いていた。魚恋のクラウス編アフターストーリーでも、エマがお妃教育に奮闘する話があったからだ。
「結婚式の日取りは、あちらの希望で半年後にしたいそうだ 」
「半年後?! 」
声を上げたのは、アドルフ様だった。私も性急な日取りに目を見開いた。
第一継承権を持つ王太子の婚姻には、時間もお金も掛かる。それ相応の準備というものがあるのに、半年でなんて実現出来るのだろうか。
でも、私にはある確信があった。
「半年後なんて、早過ぎる。王家は何をそんなに急いでいるんだ?! 」
それに対して、私は小さく手を挙げた。
「それは、私がクラウス殿下に早く結婚したいと申し上げたからです 」
そう、エマが現れる前に、それまでにクラウス様がアドルフ様と真実の愛を育んで欲しかったから。エマという存在に揺らがないだけの。
「ディーナ!! 」
アドルフ様の悲壮な声。けれど、それを止める様に「アドルフ、静かになさい 」と、お母様が諌めた。
「お父様が仰る通りです。ディーナ、貴方が望んでいるのなら、私達に反対する理由はないわ 」
お母様はそっと近付いて来ると、小さい子にするみたいに私の頬を撫でる。その目は涙で潤んでいた。
「お母様 」
「大丈夫よ。こうなる事も想定して、貴方にはそれなりの教育をしてきたつもりです。不安を感じることはないのよ? 堂々としていなさい。貴方は王家と並び立つペアーレモーネ家の娘なのだから 」
お母様の実家は、宰相を多く輩出するエルバスティ侯爵家だ。お母様は当時の王子であり、現国王のお妃候補の中でも最有力候補だったと聞いている。幼い頃からお妃教育を受けられていて、そのまま行けば、王妃になられていただろうが、それを妨げたのがお父様との出逢いだった。
夜会で運命の出逢いをした2人は熱烈な恋に落ち、結ばれた。この貴族社会においては、珍しい恋愛結婚だ。家柄的にも釣り合いが取れていたから、話は順調に進められたのだろうとは思う。
今でも、愛情は冷めることなく、私達子どもの前でもお構いなしでイチャイチャするくらい、愛し合っている。
「もう少し、手元に置いておきたかったが。それも親の我儘という事かも知れないね。」
お父様も、微笑みながらそう言った。
家族から、こんなにも愛されているディーナ。《贈り物》と言われる痣のせいか、王子との結婚を望めば、一刻も早く王太子妃にと王家から望まれるディーナ。
魚恋本編のディーナは、どうして悪役令嬢なんかになってしまったのか、私には分からなくなってしまっていた。
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