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私がディーナに転生してから、1ヶ月が過ぎた。いや、転生前の記憶が戻ってきてからと言った方が正しいのかもしれない。私は生まれた時から今迄のディーナとしての記憶も持っていた。 あー……、私やっぱり死んでるわ。 そう確信したのは、前世(?)での最後の記憶を思い出した時。 あれは、アド×クラonlyイベントの帰り道。特大マルシェバックに、買い込んだ山程の同人誌を詰め込んで歩いていた。心の中はホクホクで、肩に食い込む細くなった持ち手も気にならず、足元もフワフワなんだかフラフラなんだか分からない状況だった。 一刻も早く家に帰って推しカプの世界に浸りたい、幸せそうなお2人を堪能したい、夜の営みを(朝でも昼でもいいけど )……、以下略。 仕入れた本のことばかり考えていたせいかもしれない。家の近くの横断歩道で信号待ちをしている時だった。突然、十字路を走るダンプカーがこちらに向かって方向を変えたのを、避けることが出来なかった。気付けば、目の前に迫っていた大きな車体。続く、全身が叩きつけられる衝撃。あれで生きてたら人間じゃない。 遠くなる意識の中で、私はイベントで購入した、ドすけべ本のことを考えていた。そして、自分の性癖を知ることになる親に、「こんな娘でごめんなさい 」と謝罪していた……。 「……でもまぁ、あれはあれで、幸せっちゃあ幸せな人生だったんじゃない? 」 「何がです? 」 ディーナお付きのメイドであるアンナに聞かれて、独り言が大きかったことに気付いた。 私の髪を櫛削りながら、アンナが怪訝な顔をしているのが鏡越しに見える。 だから、そんな顔しちゃ駄目だって!!仮にも公爵令嬢のお付きなんだからっ!! アンナはディーナ付きだけあって、私の変化にいち早く気付いた人物だった。 「いや、いえ、何でもないの。オホホ 」 「……そうですか 」 ふぅ、誤魔化せた。誤魔化せたことにしよう。 私が死んで家族は泣いただろう、きっと別の意味でも。遺品があれじゃあ、私も泣きたい。 父、母、そして、同じく腐女子だった妹。願わくば、家にある大量のアド×クラの薄い本は、妹が親の目に触れぬ様、処分してくれてます様に。 もう会えないけれど、大切な家族。ずっと忘れないけれど、こちらにはもう1人の私の家族がいる。 そう、ディーナの家族。ペアーレモーネ公爵とペアーレモーネ公爵夫人。 そして……。 「ディーナッ!!! 」 私の名前を呼ぶ声と共に、いきなりバーンッと開かれるドア。 目をやると、そこには長身のキラキラした男がそれ以上にキラキラした瞳で立っていた。 その男は、カツカツと靴音も高く速足で近付いてくると、がばぁっと私に抱き付いてくる。 「ディーナッ、今日もとても可愛いよっ 」 頬にキスしてくるこの(ひと)は、私のたった1人の兄。 ……名前を、アドルフ・ペアーレモーネという。
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