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けれど、続いた言葉は私をもっと驚かせた。
「駄目だっ! 絶対に駄目! 王子に見初められたらどうするっ? 」
はぁっ?
「そんな、王子の瞳と同じ色のドレスなんか着て行ったら、勘違いさせるだろっ!! 」
そうか、アンナはそこまで考えて……。でも推しのカラーを身に付けていくのは、信者として当たり前のことよね。流石聡いわ、アンナ。
うんうんと頷きながら、私は椅子から立ち上がるとアドルフ様に近付いた。
そんなことより……。
「要らぬ心配ですわ、お兄様 」
嫌だわ、顔がニヤけてしまう。口元を隠しながらクイクイと肘でつつけば、アドルフ様が顔を顰めた。
「何だ? 」
「もうっ、心配なさらずとも大丈夫ですわよ 」
王子の気持ちが他に向いてしまうのが心配なのね。やだわー、可愛い。
でも、私は2人の気持ちを分かっているし、何なら2人を応援している、最も安全な人間だから。
「それに私がクラウス様と仲良くなった方が、お兄様の為になるでしょう? 」
私という存在を隠れ蓑に、逢瀬を重ねることだってできる。私はそれをちょっとだけ覗かせてもらうだけでいい。あっ、考えただけでヨダレが。
「ディーナ、お前……。僕の為とか、考えなくてもいいんだ。父上と母上が何を言おうと、お前が幸せになることが1番大切なのに 」
ん? お父様からもお母様からも、何も言われてないぞ? もしかして、アドルフ様とクラウス様のこと気付いてる?……まさかね、それはないわー。
「お兄様、私にとってお兄様(と、クラウス様 )が幸せになることが1番大事なのです 」
「ディーナ!! 」
強く抱き締められて、私も幸せな気持ちになる。
そんなに感激してくれて嬉しいわ、アドルフ様。クラウス様(と私)を幸せに出来るのは貴方しかいないの。だから頑張って。
この時、私は何も分かっていなかったのだ。
自分の常識、他人の非常識。この言葉を私は度々痛恨することになる。
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