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すると、ぎゃっ!という声と共に何か重たいものが地面に落ちる音が。
不思議に思って目を開けてみる。
すると私の横には、私に手を差し出していた男が倒れていたのだ。
驚いて前を見るとそこには男の子がいた。
その男の子は私の手を握り走り出した。
その時私の危険察知能力は警報音を鳴らさなかった。
道は来た時と同じように真っ暗だった。
それなのに男の子は、まるで暗い夜を明かす太陽のように、真っ暗な空に光りながら咲く花火のようにに輝いて見えた。
だんだんと屋台の光が見えてくる。
だんだんと人の声が聞こえてくる。
そう。彼は私を花火大会会場まで連れ戻してくれたのだった。
彼は笑顔で振り向いて
「大丈夫だった?」
と声を掛けてくれた。
私がこくんと頷きありがとうと言うとまるで火で作られた花が夜空に咲くみたいににっこりと微笑んだ。
見るからに同い年…いや落ち着いた雰囲気的にもう一つ上かもしれない男の子。
「あのね、僕のお家、あの道の近くなんだ。それで僕も花火見ようと思って家を出たら泣き声が聞こえて大丈夫かな?って思ったから急いで行ったら、おじさんと君がいてね。それで、君が怖がってる様に見えたからおじさんの事、やっつけちゃったんだ!」
とはにかみながら言った。
それから私は何であんな所で泣いていたのかなど、迷子になった説明をした。
ひとしきり話した後男の子がこう言った。「じゃあ、僕も君のパパとママ、探してあげる!」
私はまたありがとうと言った。
男の子はそれを聞いて、私の手をぎゅっと握ってきた。
「探してる間にまた迷子になっちゃったらいけないから、おてて、繋ご!」
私は首を縦に振った。
そこから両親を探しはじめたが一向に見つからなかった。私はもう両親には会えないのではないかと不安に思いはじめていた。すると男の子は私の不安を察知してくれたのだろう。
「この近くに住んでるの?今度一緒に遊ぼうよ!」
と言ってくれた。
私はとっても嬉しかった。だけど私にはそう出来ない理由があった。
「ごめんね。それは出来ないの。明日、お引っ越ししないといけないって言われたの。それで最後にここに来たの」
それを聞いた男の子はとても悲しそうな顔をした後、私の後ろを見やって何かいいことを閃いたかのように笑った。
そして、私の手を引いてある屋台の前まで連れてきた。
「おじちゃーん!これ何円?」
「全部100円だよ〜。でもおじちゃんにじゃんけんで勝てたら一つ50円で売ってやらぁ」
え?え?と状況が飲み込めない私に男の子はにかりと笑ってちょっと待っててねと言った。
「おじちゃーん!最初はグーっ!じゃんけんポンッ!」
「ありゃ、おじちゃん、負けちまったかぁ。よし。じゃあ、一つ50円でいいぞー」
「やったー!ねぇねぇ、どれがいい?」
とくるりと振り返って尋ねてきた。
私はこれがいい!とピンクのヘアゴムを指差した。
それを見た男の子はこれ一つください!と言って買ったヘアゴムを私に差し出してきた。
私は受け取ってそれならと、男の子に尋ねる。
「おじちゃん、くまさんのコレください」
と言ってお金を払い、それを男の子に渡した。この年頃の男の子が果たしてくまの人形を本当に喜んでくれたのかは分かんないけど、男の子は笑顔でありがとう!とお礼を言ってくれた。
それからまた30分くらい歩きながら男の子とたわいもない話をしていた。男の子はゆー君というらしいが多分、本名ではないだろう。私も自分の名前を言おうとしたところで花火の大きな音がして2人して上を向いた。その事で名前を言うタイミングを逃してしまった。
私はとっくに心を開き、ゆー君と色々なお話をした。そして歩いていると迷子センターが見えてきた。
男の子が迷子センターまで連れてきてくれたのだ。
でもそこに両親の姿はなかった。
「パパとママが来るまで一緒に待っていよっか」
と言ってくれたのでお言葉に甘えて、2人で待つことにした。
「ねぇねぇ、僕ね、君とお話しできてとっても楽しかった。明日お引っ越ししちゃうって言ってたけど、おっきくなったら僕と結婚してほしいな!僕ね、君のことが大好きだから!」
「!えへへ〜、じゃあ、一緒だね。私も 君のこと大好き!」
「じゃあ、おっきくなったら、僕と結婚しよーね!それまで、僕があげたお花持っててね。約束!」
「うん!ゆー君もくまさん持っててね!約束だよ!」
大輪の花が咲き誇る中、絡めた小さな小さな小指たち。
くまの人形とお花のヘアゴムに再開を誓って私の両親が来るまで手を繋いで待っていた。
それが私とゆー君の9年前のお話
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