天夜海

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ある路地裏に「天(てん)夜(や)海(かい)」というお店が存在するこの店はある特殊な事情の者たちのみが入ることのできる特殊なお店である。  ここの店主をしているのは二十歳を過ぎたぐらいの男性 神宮零斗だ。彼は黒髪の短髪で身長は男性の平均ぐらいである。零斗は優しい雰囲気とどこか暗い影を纏っている。それでも今日もお店を開く。  また一人、特殊な事情を持つお客さんがやってきた。  零斗side  「・・・・お邪魔します」  「いらっしゃい」  若いのに随分とくたびれたお客さんが店にやってきた。  やってきた客は若者みたいだが着こんでいるのはかなり草臥れていてかなり疲れているのが見て取れる。  「はぁ~」  「どうかしましたか?」  「え?」  「いえ、かなりお疲れのように見えたので」  思わず俺は彼に声を掛けた。  「すみません。実は去年親が事故で亡くなって親戚もいないもので高校を一年もたたずに退学して務められる場所を探しているんですがまだ見つからない状況だからか全然疲れが取れないもので、あはは」  彼は苦笑いする。  「なるほど。それはとても大変だったね」  (多分ここの店に来れたということは何かあるということか)  この店には特殊な客しか気づくことができないようにある細工がしてある。  「ああ、死にたいな」  ポツリと彼はつぶやく。  「まぁまぁ、そんな暗いことを言わずにそんなことをすれば亡くなったご両親に怒られますよ。「なんで自殺なんかしたんだ!!!」って。だから、元気出してくださいきっと良いことがありますよ」  「そうでしょうか。いや、そうですね父さんならそう言いそうです」  彼は少しだけ顔を上げ笑みを浮かべた。 「そうです。さて、暗い話はこのぐらいにしてご注文は何にしますか。今日は特別に安くしときますよ」  「ありがとうございます。それでは、カレーをお願いします」  「わかりました。飲み物は何がいいかな?好きなの頼んでくれて構わないよ」  「いいんですか?」  「ええ」  「それじゃあコーラをお願いします」  この店は特殊な事情を抱える人たちしか入れないが年寄りから若い人、そして子供でも来ることがある。  「お待ちどう」  「ありがとうございます。ゴク!ゴク!」  出てきたコーラを飲んでいく。  「ここはいつからやっているんですか?よく通る道ですけど路地裏だったので全然気づきませんでした」  「そうですね、大体一年前ぐらいからですね」  「一年も前からですか。実は今日は何だか惹かれるようにここに来た感じなんです」  「はは、不思議なこともあるものですね。でも、ここに来る人はなぜかそう話す人が多いんです。まぁ、そうでもなければこんな路地裏の奥にまで人は来ませんからね」  「そうなんですか」  そんな話をしていると店の扉が開いた。  「おっじゃま~」  「帰れ」  入ってきた客の声を聴いて俺はすぐに追い返す。  「ひっど~い!いきなりお客さんに向かって帰れはないでしょ!」  やってきたお客は一見子供のように見えるが小柄な成人の女性であり和服を身にまとい髪をまとめてお淑やかな感じであったが言動はそれを裏切るほどの快活さで子どもじみている。彼女は常連客で俺の幼馴染で名前は桜神光。一年前までは同じ職場で働いていた同僚でもある。  「お前が来るたびに店は壊されるし客と喧嘩を始めるはでこっちは酷い目にあっているんだ。当たり前だろ。」  こいつの性格は子どもっぽくお酒を飲めば暴れることもあり店を壊されることも度々ある迷惑客である。  「むぅ~」  俺が容赦なく言うと光はふくれっ面になる。  「なんで私のせいなのさ。あれは相手が悪いでしょ。それに、零斗だって昔はやんちゃしてたじゃない」  「昔の話だろ」  「ええ~、去年ぐらいの話じゃないの!」  「うるさい」  去年の話をしてくる光に俺は恥ずかしくそっぽを向いて言う。  「えっと、お二人は知り合いなんですか?」  彼は俺たちを見ておずおずと訪ねてくる。  「あら、珍しくお客さんがいたのね。私は桜神光。普段は別の場所で働いているの一応ここでも働いているけど彼とは幼馴染で彼が独立して私たちは一緒に仕事をしているの!ほかにも何人か仲間がいるんだよ」  「そう何ですか」 「はぁ、それで注文は?」  俺は気を取り直して桜神に注文を聞く。  「あ、うん。いつもので」  光のいつもの注文は日本酒とその日に仕入れている魚の塩焼きである。  「はい、お待ち」  俺は魚と日本酒を出す。  「ありがとう!ねぇねぇ!それよりそこの草臥れている君!」  「え、僕ですか?」 「君以外にいないでしょ。随分と良くないものに憑かれているね。かなりの災難に見舞われていると思うんだけど。どこか幽霊の出る場所にでも行ってきた?」 真剣な表情のようでどこか楽し気に彼に話しかける。  「え?」  彼は光のいきなりの発言で呆気に取られていた。それはそうだろう何も知らない人たちからすれば何を言っているのかわからないだろう。現に彼も戸惑っている。  「お前な順序っていうのがあるだろ。見ろ、呆気に取られているだろ!」  「ええ!回りくどいの嫌いだもん!」  「あの、どういうことでしょうか?」  ようやく意識が追いついたのか聞いてくる。  「そのままの意味だよ。あなたからは嫌な気配がしているの。それに、この店に来れたっていうことはそういうことなんだ。ここはそういうお店なのだから」  「え?」  入ってきた時とは全く違う子供っぽい雰囲気が無くなって急に大人びた雰囲気が出ており彼も戸惑った表情で俺の方を見てくる。  (こいつはいつもこうなら助かるんだけどな)  俺はそんなことを思う。光は昔からこうなのだ。普段は子どもっぽいというのにいざとなったら急に大人びるのだ。  (まぁ、急に雰囲気が変わるから不気味がられて人から良く避けられていたんだよな。本人は特に気にしてないみたいだが)  「はぁ、こいつは説明する気が無いみたいだから俺が説明するまず、この店は君みたいな訳ありを招くよう呪い(まじない)を掛けてあるんだ。君が惹きつけられるようにと感じたのは気のせいでも何でもない」  「訳ありですか?」  「そうだ、君の場合はこいつが言った通り何かに憑かれているからだろうな。そして、そういう客を引き入れるように呪いを掛けてありそれを光やここにはいない他のメンバーが祓うんだ」  「そう、何ですか?」  「そうよ」  彼の戸惑いに対して光は短く答えるだけであとは酒を飲んでいた。  「二つ目になんでこいつや俺がそんなことに詳しいのかと聞かれると俺とこいつの職業が退魔師だからだ」  「退魔師、ですか?」  「そうだ。魔を退けるもの嘗ては陰陽師が仕事を請け負っていたが一部の者たちが悪意を持って使う者たちがいたために陰陽師から退魔師というのを作り上げて完全に分けることで陰陽師は本来の仕事、天文学や風水などある程度は平穏に戻っていった。 だが、退魔師はそういう訳にはいかなかった。完全に陰陽師と退魔師を別つということは邪な者たちも退魔師側に流れてくることになる。そして、ここから長い退魔師と悪意を持った退魔師との戦いが始まった」 「退魔師と陰陽師にそんな関係があったんですね」 彼はどこか感心した様子で答えた。 「さて、それじゃあ私たちのことが分かったところでそろそろ話を戻しましょう」 「あ、はい」 俺の話が一区切りついたところで光が本題に戻す。 「それで、よくないものに憑かれたことに心当たりはないの?」  「そんなことを急に言われても心当たりなんて・・・・あ、もしかして」  光に聞かれて彼が最初は戸惑っていたが少し考えて何かを思い出したのか声を上げる。  「そういえばネットで出品されていたものを惹きつかれるように買った物ですけど。なんだかかなり怪しい感じの物で今は仕舞ってあるんです」  「ほう!ほう!その写真とか今あるの!」  楽しくなってきたような雰囲気で光が詰め寄る。  「は、はい」  光に詰め寄られて戸惑いながらも彼はスマホから写真を見せてくれる。  「これはまた、出品者は何を思ってこんな物を出品したんだ?」  思わず俺は写真をみてそう言う。彼が買った物は悪魔のような顔をした木彫りの何かであった。しかも札が貼ってある。  「札が貼ってあるわね。まぁ、大して効力のない封印だけど」  「え!?この札、封印しているんですか」  彼は驚いた声を上げた。  「ええ、そうだけど。もしかして剥がしたの?」  「はい、顔がよくわからなかったので」  「ふぅ、そうなの。いい、よく聞いてね。これは、ちょっと強力な呪いの類で効力の薄い封印だけどそれでもある程度は抑えられていたみたいだからこの札を剥がしたということはおそらく今は呪いがむき出しの状態にある」  光はかなり真剣な表情になっている。当然だろう呪いの濃さは写真越しでもわかるほどでかなり危険な物だ。  「そ、そんな」  彼はかなりショックを受けていた。  「最近のネットは怖いわよね。こんなものまで平気で売っているんだから」  写真を見ながらどこか感心している光。  「あの、でも・・・」  何とかショックから回復したのか声を掛けてくる。 「これ、大量に販売されていたんですけど」  「!!!!」  あまりの驚愕に俺たちは声が出なかった。  「・・・それは本当か!?」  俺は何とか立ち直り彼に聞く。  「はい。それなりに売り切れていました」  「それが本当ならかなり不味いわね」  光もかなり厳しい表情になっていた。  「ああ、そうなると誰かが意図的に悪意をもってやったことになる」  「ええ、そうなると。目的は・・・」  「ああ・・・」  「テロ」  俺と光の声が一致する。  「テロ、ですか?」  彼が聞いてくる。  「ええ、何年か前には増えていたのよ。ネットを通して呪いを掛けた物を買わせてその相手を呪うのよ」  「と言ってもそれを行っていた組織は去年滅んだ筈だから一体誰がこんなことをしたのかわからないな」  俺と光は二人で話し合う。  「でも、殲滅できたということはないだろうから残党が残っていた呪いを掛けていた品物を持ち出して今売っているということはあり得るでしょう。というより今の段階ではこれが一番有力よ」  「それは、そう何だが・・・・どうにも、な」  光の考えも一理あるがどうにも俺は引っかかる部分がある気がして歯切れ悪く返事をする。  「何か引っかかる部分があるの?」  「ああ、元の組織が持ち出したというのは確かに一番可能性があるだろう。だが、組織の構成員が売っているにしても今はセキュリティーがかなり強固になっているからそんなことをしてもすぐに特定されているはずだ。それなのにセキュリティーに全く引っかからないなんて言うことがあるのか?」  「確かに・・・・」  俺の考えに光も同意する。  「でも、それなら犯人はかなり絞られるかもしれないわね」  「ああ」  「あの、どういうことですか?というより店主さん言葉遣い変わってません?」  俺たち二人の会話が一区切りすると一人置いてきぼりだった彼が訊ねてくる。  「うん?ああ、悪いな。こっちが普段の素だよ。さっきまでの口調はお客と話す時の言葉遣いだ」  「そうなのよね。私からしたら気持ち悪くてしょうがない」  「ひでーな」  真面目な顔で光にそう言われ若干傷ついた俺は傷ついた。  「まぁ、それはいいとして。これから君の家に行ってもいいかな?というより今更だけど君の名前はなんていうのかな」  光が訊ねる。  「え、えっと名前は池田俊です。あの、それで何で僕の家に?」  「そっか、池田君ね。さっきの見せてくれた写真を実際に見ようっていう話だよ。直接見に行った方が早いから。零斗も行くでしょ?」  「俺もかよ!」  光の言葉に俺は驚いた。  「当然じゃないの。零斗だって気になるでしょ。どうせ暇なんだから」  「そりゃそうだが」  「よし決まったらレッツゴー!」  そんな光に俺は呆れるのであった。  「それじゃあ池田君、零斗行くよ!あっ、お勘定は私が持つよ!」  話しながら光はすぐに支度をしてお金を置いて早くと急かす。  「えっいやでも。お金は払いますよ」  池田は光の行動に戸惑い俺の方を見てくる。  「気にするな。もとから俺もそういうつもりだったからな」  俺は心配いらないと池田に話す。  「はぁ、えっと。それじゃあごちそうさまです」  そんなことをしながら俺は店仕舞いをして三人で池田の家へと向かう。    「へぇ、ここが池田君の家なの?」  「はい。そうです」  「一軒家なのか?」  「ええ。兄弟もいないですし親戚もいないですから。僕が引き取るしかなかったんです。幸い親のお金があったので心配は要らなかったので」  その家は世間一般のどこにでもある住宅だった。  「でも凄いわね。これ一年ぶりぐらいに見たね」  「ああそうだな。こんなのは現役時代でもそうは見ないぞ」  「あの、何がですか?」  池田が何を言っているのかわからないのか聞いてくる。  「呪いのオーラが外からでもわかるほどに強いのよ」 そう光が言ったように俺たち二人は外からでもわかるほどに広がっている呪いのオーラを見て若干だが驚いていたのだ。 「そう何ですか?」 「ああ、だが何も感じないのか?」 「はい。でも、昔は近所づきあいもあったんですが両親が亡くなってからはしばらくは普通だったんですけどあの木彫りを買ってから何だか不気味がられているような感じがしていたんです。もしかしてあの木彫りのせい何でしょうか?」 「ああ、だろうな」 池田の返事に俺は少しだが疑問を感じた。これだけ大きな呪いが出ていて近所の人たちも感覚的に何かを感じているというのに本人が何も感じないなんて言うことがあるのだろうか。 「ねぇ、池田君何か隠していることがあるんじゃないの?」 光も俺と同じことを考えていたのか直球で池田に聞く。 「え!?何も隠してないですよ!」 光の直球な聞き方に池田は驚いていた。だが、その驚き方は何も知らないように見えた。 「そう。なんだかいろんなことを調べないといけないような気がしてきたわ」 「そうなんですか?」 本人には自覚が無いみたいだな。 「ああ、そうだな。一般人にも気味悪がられているというのに本人の自覚がないのはあり得ない。何らかの理由があるはずだ」 「そうね。あなたのご両親の遺品は何かあるのかしら。あるなら日記とかそういうのがいいね」 「はぁ、多分あると思いますけど・・・」 「まぁ、今はお前の話はいいだろさっさとやるべきことをやるぞ」 「それもそうね。この呪いを何時までも放っておくわけにはいかないし。家の中案内してくれる」 「わかりました」 池田の案内で家の中に俺たちは入っていく。 「どうぞ」 「お邪魔します」 「早速だけど木彫りはどこにあるの?」 光は一息つく間もなく池田にどこにあるのか聞く。こればかりは仕方ないだろう俺たちは平然としたふりをしているがかなりキツイ下手をすれば簡単に呪いに掛かってしまいそうなほどである。 「えっと、自分の部屋にあるので今持ってきます」 「いえ、私たちも行くわ」 そういって、池田は取りに行こうとするがそれを光が止めて自分たちも一緒に行くと言った。 「はぁ、わかりました。こっちです」 「ここが自分の部屋です」 「そう、それじゃ私たちから入ろう。何があるか分からないから」 「いえ、いつも部屋に入っているので大丈夫ですよ」 そう言いながら池田は部屋を開けて中に入っていく。 「普通の部屋ね」 「そうだな」 俺たちはそう話す。池田の部屋は特に物が多いわけでもなく少ないわけでもないシンプルな部屋だった。 「ちょっと待っててください今出しますから・・・・あったこれですよね」 池田は自分の机の引き出しから悪魔のような顔をした木彫りを出した。 「それを普通に触れるの?」 光は若干だが驚いているように感じた。 (まぁ、それは俺も同じか) 俺もかなり驚いている。その理由は、呪いの濃さがかなりのものであったからだ。普通の人でもまず触ったら呪われると感じるぐらいの濃さがある。それを何も感じないかの如く池田は普通に躊躇なく触っているのだ。 「池田君、触れても何ともないの?」 「え、ええ。何ともないですけど」 光の質問に池田は何ともないかのように返事をする。 「そう。それじゃあ早速呪いを浄化するね」 何かを言いたそうにしていたが先に浄化する方が先だと感じたのか浄化をするための準備を始める。 「それじゃあ下がってて」 鈴とを取り出し床に円を描きその円の中に天という文字を描いた。 「あの道具や円の中の天は何ですか?」 池田が俺に聞いてきた。 「あの鈴の方は神楽鈴と言って神を迎えるために使われる鈴だ。そして、あの円の中に書かれている天という文字は天照大御神の天だ。神楽鈴で天照大御神の力を借りてその呪いを浄化する」 本来はそんなことをしなくてもいいが急を要する案件だったからこっちも準備ができていない為に円の中に天を描いて天照大御神を呼ぶ方法をとった。 「天照大御神って最高神の?」 「ああ、そうだ。光は神々の力をその身に宿して邪な力を払ってきた」 そう話している間にも光は神楽を舞いだした。 「凄いですね」 (相変わらず綺麗だな。あいつは子供っぽさがなければ本当に綺麗なんだが。まぁ、本人には言えないが) 池田はその姿を見て感嘆の息を漏らす横で俺はそんなことを考えていた。それほどまでに神楽を舞っている光の姿は綺麗なのだ。 「呪具を浄化せよ」 光がそう呟くと木彫りの呪具から禍々しい気が段々と薄れていきやがて消えていった。 「ふぅ」 「これで終わったんですか?」 「ああ、これで取り敢えずは大丈夫だろう。だが・・・・」 「そうね、問題はまだ残っている。あなたがなぜそんなにもこの呪いを感じることができないのか」 安堵している池田に俺と光は視線を向けた。 「あの、そんなに問題なことですか?」 「ええ、呪いの濃さから言ってもあなた自身も死んでいても可笑しくなかった、なのにあなたは疲れ程度で済んでいたこれは異常なことなのよ」 「そう、何ですか?」 池田はあまり実感していないようだ。 「まぁ、そんなことを言っても仕方がないだろう。今は彼の両親が残した遺品を調べてみる必要がある」 「・・・・ええ、そうね。案内してくれる」 「わかりました」 俺たちは池田の案内で両親の部屋へと向かう。 「ここがあなたのご両親の部屋?」 「はい、そうです」 両親の部屋の中に入るとそこには手つかずままであったが俺と光はすぐに気が付いた。 「ねぇ、これって・・・・」 「ああ、間違いない。池田、君はご両親の職業は何だか知っているか?」 「職業ですか?サラリーマンとOLだって聞いていますよ」 「君のご両親は俺たちが去年滅ぼしたテロ組織のメンバーだ」 俺たちが入ってすぐに気づいたのは池田の家族写真だった。 「・・・・え?」 しばらく返事がなくようやく出たのは戸惑いの声だった。 「間違いないわ。この二人は呪いを生み出していた二人よ。何か理由があるんだろうと思っていたけど終ぞそれはわからず仕舞いで二人の死は事故死で通された。まさか、息子がいたなんてね」 「ど、どういうことですか!?両親が呪いを生み出していたなんて!?そんなこと信じられるわけないじゃないですか!?」 池田は俺たちの言葉の意味をようやく理解したのかかなり慌てふためいていた。 「落ち着いて。とは、さすがに言えないけど事実よ。あの二人は最後まで私たちに敵対して最後には無理な呪いを発動して失敗に終わりその呪いと共に消えていった」 「そ、そんな・・・・」 光の言葉に池田はショックで言葉が出なくなっていた。 「じゃ、じゃあ両親は・・・・」 「本当は事故死ではないよ。自分の力量外の呪いを使おうとすれば逆にその呪いが自分に返ってきたんだ。自爆ね」 「ど、どうして両親がそんなことを・・・」 「さあね。だからそれを今から調べるんだよ」 「そうだな」 「・・・・わかりました」 池田の了承を得て室内を調べ始める。 数分後 「これは!?」 「何か見つけたの零斗?」 「何かあったんですか!?」 俺はある一冊の本を見つけて読んでみて驚いて思わず声に出した。二人はその声に反応してこちらに近づいて聞いてくる。 「ああ、日記帳だ」 「日記帳・・・・」 俺は日記帳を池田に渡した。受け取った池田は中を読んでいく。 「普通の内容ですよ。特別な内容が書かれているわけでもないですけど。驚くことなんですか?」 「へぇ、呪いを生み出していただけはあるのね」 光は池田から日記帳を見せてもらうとすぐに気づいたようだ。 「え、何がですか?」 「この日記帳には僅かだが呪いが掛けられている。普通に見れば何ともないが・・・・」 「ええ、この呪いを解くと池田君の両親が何を書いていたのかがわかるようになっている」 光はそう言うと手で印を結ぶ。すると日記帳が光りだした光が収まるとまた元の日記帳に戻る。 「さて、読んでみましょうか。あなたの両親が書いていたものを」 『〇月×日  遂に私と夫との間に子供が生まれ私たちは二人で喜び涙を流した。だが、それも束の間であった子どもは確かに元気よく泣いていた。病院の人たちも何ともないかのようにしている。私たちにしか退魔師である私たちにしかわからないものだった。自分たちの子供にまるで地獄から這い出てきたようなそんな力が見えたのである』 「地獄、か」 「なるほどね。あなたが呪いにほとんど影響がなかったのはそのためだったのね」 「・・・・」 俺たちは日記を見て納得したが池田は言葉を発することができないのか沈黙している。 『〇月×日  私と赤ん坊は退院して内心は穏やかではないが何とか平静を装い自宅に戻ってきた。  私は夫と共にすぐ子供について調べ始めた。 〇月×日  数日掛けて子供のを調べた結果、私たちは一つの結論にたどり着いた。数百年に一度現世に現れこの世を地獄へと変える存在「黒獄(こくごく)」だと』 「黒獄!?」 「この世を終わりにするとされている地獄の怪物。その力は大地を空を海を地獄の業火で埋め尽くすと言われている」 「ぼ、僕が・・・・怪物?」 俺たちはかなりの衝撃を受けた。伝説の存在だとばかりに思っていた者が自分たちの目の前に存在していたとは。 (いや、一番ショックだったのは彼、か) 池田は理解ができないとばかりに顔を項垂れさせている。 「続きを読もう」 「そうね。二人がなぜ組織に入ったのかまだ知らないからね」 「わか、りました」 言葉を途切れさせながら池田も了承する。 『〇月×日   私たちはそのことにショックを受けていた。だが、このままでは子供の正体に気づいた退魔師によっていずれ殺されてしまう。子供を黒獄としておくだけでなく何とかそれを制御することが出来れば子供は助かるかもしれない。退魔師に気づかれる前に方法を探さなくては 〇月×日  調べてから数日、私たちは子どもが黒獄の力を制御できる方法について調べていたが調べ始めているうちにその力を封じることが出来るのではないかと思いつきそれを試した。 結果は大成功だった。おそらく一時的だろうが力を抑え込むことに成功した。後はそれを制御する方法を見つけるだけである』 「黒獄を封じることが出来るなんて親の子供を守ろうとする執念は凄ましいね」 「ああ、しかも制御する方法を探し出そうとはな」 「父さん母さん」 『〇月×日   黒獄の力を封じて数年が経過して健康状態は良好で子供も大きくなった。黒獄の力が出てくることはないが呪い関係のものに関してはその怖さがわからないのか平気で呪われている物でも触れてしまうのには困ったものだ。  〇月×日   私たちは遂に制御する方法を見つけ出した。だが、その方法は禁忌の呪術でありそれを使えば子供の正体がバレてしまう。それを回避するために私たちはあるテロ組織にくみし隠れ蓑にすることにした。  そのテロ組織は呪いを掛けた呪具をネットを通して売りさばきこの国を支配していくことにある。おそらく私たちもいずれ退魔師によって天罰を下るであろう。その前に子供に制御させる術を掛けなければ。 〇月×日  遂に私たちテロ組織の居場所を退魔師たちに気づかれたようだ。すぐにでも仕掛けてくるだろう。この組織はおそらく終わる相手は退魔師の中で最強と言われているチームのようだ。だが、こちらの準備もギリギリで間に合った。 これで安心して逝ける』 「父さん、母さん」 短く池田はそう発した。その目に涙を流しながら。 「・・・・」 俺たちは言葉にすることが出来なかった。 「ねえ、あの二人が最後に使ったのは・・・・」 「ああ、恐らく失敗じゃない、成功したんだろうな」 池田の両親が最後に使ったのは彼の力を制御させるためのものだったのだろう。 「これが最後ね」 光は日記の最後を読む。 『これを読んでいるということはどこかの退魔師なのでしょうね。どうかお願いします。この子の力になってください無理なお願いだというのは重々承知です。ですが、どうか、どうかお願いします。息子を俊を助けてください』  その文字からは親としての切なる願いが込められていた。  「う、うぅ父さん、グス母さん」  池田は只々涙を流し続ける。俺たち二人は黙って見ているしかできなかった。  「どうする。これから・・・・」  「どうするって言ってもよ」  「このままにしておくわけにはいかないでしょ」  「わかっているが、どうしろっていうんだ?」  俺たちはひそひそと話す。  「いっそのこと引き取る?身寄りもいないみたいだし」  「だが、あまりこっち側に招きいれたくはないだろう」  「でも、どのみち彼の力を制御させないといけない日が来る。それなら今から始めた方がいい」  「・・・・」  光の言葉に俺は沈黙するしかなかった。  「だが、仲間たちは兎も角なんて両親に説明する。両親には説明しないわけにはいかないだろう」  「それはそうだけど・・・・なら両親にも協力してもらいましょう!」  光と俺の視線がしばらくぶつかり合う。  「はぁ、わかった。まぁ、話し合ってからでも遅くはないか」  俺が根負けして後日俺たちの両親と話しあうことにした。  「さて、話しが纏まったから彼にも話そう」  「だな。池田君大丈夫?」  光が池田に声を掛ける。  「はい。大丈夫です。あの、俺はこれからどうすればいいんでしょうか」  目を赤くしながらもしっかりと俺たちを見る。  「・・・・」  俺と光はその目を見て心の中で安心した「この子なら大丈夫だ」と。  「ねぇ、君退魔師にならない?」                                 END
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