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「居候…というか、弟子みたいなモンだよ。コイツの父親のな。俺の村じゃ海に行くなんて村八分ものだからな。俺はオマエらくらいの頃に村を出て、アカデミーで航海術を学んで此処で釣りやら漁やらを好き勝手やらせてもらってんだ。遠洋漁業だって、俺がいりゃ心配ないって師匠も言ってくれるから――」
「「航海術!?」」
「食いつき凄っ!」
ティムールは思わず声を荒げた。こんな子どもたちにとって、航海術の何が強く惹きつけられるのだろう。名前の格好良さだとか、その程度だろう――内心小馬鹿にしていたティムールは、ギルの一言に再び驚かされることとなる。
「なあなあ、ティムール!…おれたちの仲間になってくれ!」
「「ギル(様)!?」」
「…え、もしかして俺に言ってる…?」
「おう、おれが知ってるティムールってオマエしかいねーもん!」
ムフン、とギルは胸を張って言った。出た、とエンリケはため息をつく。ギルは一度決めると話を聞かない節がある。それが、今出ている。それでも自分がここまで彼に付き合うのは、きっと彼に人を惹きつける何かがあるからだろう。ティムールの答えは、そんな心配をするエンリケとも、目の前で目を輝かせるギルやオリーヴの予想とも異なるものであった。
「ギル、オマエ見る目あるな。良い誘いだと思う。だが、すぐには『うん』と言えねェな。」
「えーっ」
「何か、ご事情が?」
「確かに俺は航海術を学んでる。それを生かすには、ただの漁業よりかは旅に出ちまう方が良いんだろうな。ただ、最近実家の方から圧かかってんだ。なんてったって、俺の実家は――」
ティムールは続きを語らなかった。ティムールは何かを見つけたのか顔色を変えた。
「?どうした、ティム――」
四人は煙幕に包まれた。ギルたちは目を瞑ったり咳き込んだりしていたが、案外煙が消えるまではそう長くなかった。真っ先に目を開けたギルは、目の前の光景に思わず目を擦り、二度見した。彼の脳は正常だったようだ。
「…あれ?ティムール何処だ?なーエンリケー、オリーヴ―。ティムールいねーぞ?」
「は?でもさっきまで此処に――いねェな…」
此処には三人しかいなかった。愛用する釣竿を残し、ティムールは姿を消していた。見渡しても、何処にも彼の姿は見当たらない。近くに建物はなく、何処かに逃げ隠れているとは考えにくい。つまり。
「…攫われた、とか?」
「ティムールが?強そうなのに?」
「まあそう簡単にやられねェとは思うが…」
「あの、コレ見て下さい!この袋…!」
「袋?…ああ、魚入れてたヤツか。」
オリーヴは、ティムールが担いでいた袋を見せた。じっくり観察すると、その底面部分に何やら記号が書いてあるのだ。綺麗な円の中央に斜め線が二本描かれ、その外側にはそれぞれ細長い三角形と、下に突き抜けたような棒が縦に入っている。これが何を表すのか――エンリケは察した。
「エンリケさん、何かお分かりで?」
「分かるも何も、この村の連中で知らない奴はいない。妙な噂が絶えない、隣のデッケェ村・ムグル。その当主の一門の家紋だ。」
「ムグル?んー、何か聞き覚えがあるようなないような…」
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