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第1夜 少年ギル
「まーたそれ読んでるのかよ、ギル。」
「んあ?」
ヨイヅキ村の海辺に、少年が二人。本を眺めている茶髪の少年に、淡い青の髪の少年が話しかける。ギル、と呼ばれた者は前者である。
「んだよエンリケー、海出るくらい良いじゃねーか。それに、これ良い言葉じゃん。」
「『空は広く、海は青く澄んでいる~』ってヤツか?散々聞かされたから覚えてんよ。そんなの当たり前だろーが。それに、オマエまだ11だろ。もう少し待てねェのか。」
「だってだってー、父ちゃんだって海出たっきりって聞いたぞ!おれだって良いじゃん。」
「そうは言ってもよ…オマエの母ちゃん許してくれっかな?」
ギルとエンリケは幼馴染である。ギルは昔から冒険が好きで、海に出たっきりの父親を尊敬しているらしい。ギルが「海に出る」といい、エンリケがそれを嗜める。これが二人の日常だ。「でも」とギルは続けて言う。
「そうは言っても、海出ること自体は否定しねェよな。何だかんだ、エンリケも興味あるんじゃねーの?」
「まあな。オレん家は漁師の一族、この辺りの海はオレの庭よ!それに、オレも正直遠出はしてみたいしな。頭良くなきゃできねーんだってよ。」
「だから寺子屋長く居たんだ。年上なのに、おれと同じクラスいたし。」
「うっせ!」
エンリケが反発する。エンリケは少しだけギルより年上で、学校に長く居たために村人にしては頭が良いのだ。
ギルは本を閉じて、エンリケを追いかけるように散歩を始める。が、今日は何だかエンリケの様子が変だ。立ち止まってはじっと海を眺め、また歩き、立ち止まる。その繰り返しだ。
「どうした?」
「いや…何か、波が妙だなと。明日は天気悪そうだ。明日誕生日だったよな?」
「おう。」
「んじゃ、ちょうど良いわ。オレ今日そっち泊まんぜ。峠の方が安全だからな!」
エンリケは約束を取り付けると、陸地へ戻っていった。一人残ったギルは散策を続けるが、彼もまた砂浜の端っこで立ち止まった。人――黒いヴェールを被った少女の上半身が見えたからである。
「なー、オマエどうしたんだ?寝てんのかー?」
「…けて…助けて…」
「ん?…明日天気悪くなんだってよ。ひとまずおれの家行くか?多分、母ちゃんとかエンリケが助けてくれるって。」
「…では、お願いします…」
ギルは少女をひょいと持ち上げて担ぐと、そのまま家まで駆けだした。急な坂道を登り、峠の上の家――ギルの家へと向かった。
家に着くとすぐに一人の女性が現れ、ギルたちを出迎えた。少女を担ぐギルを見ても、彼女は特に動じる様子はなかった。
「あ、ギル遅かったね。まーた本読んでたの、海で?」
「母ちゃん…良いだろ。それと、海に寝てた女連れてきた。」
「あら、怪我してるじゃないか。大変、アタシのベッドで寝かせてちょうだい。」
「はーい」
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