1人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
「サンゲン島。此処はその海沿いの村、ヨイヅキ村だ。」
「ヨイヅキ村…サンゲン島……」
オリーヴは考え込んでいた。ただ反復しているだけか、それとも。様子のおかしい彼女を、ギルとエンリケはじっと見つめていた。
そんな平穏な時間は意外にもあっさりと終わりを告げる。三人の元に一人の男が駆けつけた。男は、息を切らしながら言う。
「…そうだ、ギルさん――」
「ギル!エンリケ!お嬢ちゃんも!早く逃げなさい!」
「えと…どなた?」
「ヴィンさん、うちの村長さ。」
「村長!どうしたの?」
「ハァ…熊が出たんだ……熊が村中を荒らし回ってる。じきに此処にも来るだろうよ。」
「熊ァ?」
「いけません、お二人共逃げましょう!…あのー?」
村長・ヴィンやオリーヴの注意も聞かず、ギルはうずうずとしていた。彼につられたのか、エンリケも同様であった。
「熊…熊なァ…なーんか昨日から調子良いんだよな。おれ勝てっかな?」
「ギル!?」
「さあ、どうだかなァ…熊公相手に勝てたら、ベルベットさんも旅許してくれんじゃねーか?つーかオレも一度熊とやり合ってみたかったんだよなー。」
「エンリケさんまで…」
ギルもエンリケも、熊相手に戦う気満々である。生きて帰れるか、ではなく、勝つ前提で話している。
興奮気味の二人を止める間もなく、彼らの前に獰猛な熊が向かっていた。二人は各々の武器を手に、身構えていた。その表情には恐怖やどよめきはなく、興奮や喜びだけが見えた。
「よーしギル、どっちが倒すか競争しようぜ!勝った方の言うこと何でも一つ聞くってルールで!」
「良いぞ!」
「何やっとるんじゃこんな時に!」
二人は一斉に熊へと向かっていく。エンリケは斧を振り回し、ギルはひたすら後を追う。どちらも怯むことなく、むしろ熊を着実に追い詰めていた。
「凄い…歳の近い子どもが、熊相手にこれだけ…あの、村長さん。二人ってお幾つなんですか?」
「アイツらか?…比較をしたい。お前さんは?」
「16です。」
「じゃあアイツらの方が歳下だな。エンリケは15、ギルは12じゃ。」
「12!?まだ子どもじゃないですか…あの歳で素手で熊と渡り合うとは…」
「ギルはよう動ける子どもじゃ。村ん中でも、あの子と互角に渡り合えんのはエンリケくらいじゃろ。」
ヴィンは落ち着いた声で語る。彼の視線は、まっすぐギルに向けられていた。これから熊に捕らえようとするエンリケに、ギルは歩いて接近していた。
『――けて、た…け…』
「貰った――」
「ダメだ、エンリケ」
「は?」
「ダメだ。近くに子熊がいる。この熊、多分子熊を探してんだ。おれはそっち見てくる。」
「え、おい!」
ギルは妙な声を聞いていた。止めるエンリケを横目に、ギルは熊から離れ、小さな池を飛び越えて渡る。一本の木に大きな岩がもたれかかっているが、その前で彼は立ち止まった。じっくりと観察して、彼は呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!