第1夜 少年ギル

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「サンゲン島。此処はその海沿いの村、ヨイヅキ村だ。」 「ヨイヅキ村…サンゲン島……」 オリーヴは考え込んでいた。ただ反復しているだけか、それとも。様子のおかしい彼女を、ギルとエンリケはじっと見つめていた。  そんな平穏な時間は意外にもあっさりと終わりを告げる。三人の元に一人の男が駆けつけた。男は、息を切らしながら言う。 「…そうだ、ギルさん――」 「ギル!エンリケ!お嬢ちゃんも!早く逃げなさい!」 「えと…どなた?」 「ヴィンさん、うちの村長さ。」 「村長!どうしたの?」 「ハァ…熊が出たんだ……熊が村中を荒らし回ってる。じきに此処にも来るだろうよ。」 「熊ァ?」 「いけません、お二人共逃げましょう!…あのー?」 村長・ヴィンやオリーヴの注意も聞かず、ギルはうずうずとしていた。彼につられたのか、エンリケも同様であった。 「熊…熊なァ…なーんか昨日から調子良いんだよな。おれ勝てっかな?」 「ギル!?」 「さあ、どうだかなァ…熊公相手に勝てたら、ベルベットさんも旅許してくれんじゃねーか?つーかオレも一度熊とやり合ってみたかったんだよなー。」 「エンリケさんまで…」 ギルもエンリケも、熊相手に戦う気満々である。生きて帰れるか、ではなく、勝つ前提で話している。  興奮気味の二人を止める間もなく、彼らの前に獰猛な熊が向かっていた。二人は各々の武器を手に、身構えていた。その表情には恐怖やどよめきはなく、興奮や喜びだけが見えた。 「よーしギル、どっちが倒すか競争しようぜ!勝った方の言うこと何でも一つ聞くってルールで!」 「良いぞ!」 「何やっとるんじゃこんな時に!」 二人は一斉に熊へと向かっていく。エンリケは斧を振り回し、ギルはひたすら後を追う。どちらも怯むことなく、むしろ熊を着実に追い詰めていた。 「凄い…歳の近い子どもが、熊相手にこれだけ…あの、村長さん。二人ってお幾つなんですか?」 「アイツらか?…比較をしたい。お前さんは?」 「16です。」 「じゃあアイツらの方が歳下だな。エンリケは15、ギルは12じゃ。」 「12!?まだ子どもじゃないですか…あの歳で素手で熊と渡り合うとは…」 「ギルはよう動ける子どもじゃ。村ん中でも、あの子と互角に渡り合えんのはエンリケくらいじゃろ。」  ヴィンは落ち着いた声で語る。彼の視線は、まっすぐギルに向けられていた。これから熊に捕らえようとするエンリケに、ギルは歩いて接近していた。 『――けて、た…け…』 「貰った――」 「ダメだ、エンリケ」 「は?」 「ダメだ。近くに子熊がいる。この熊、多分子熊を探してんだ。おれはそっち見てくる。」 「え、おい!」 ギルは妙な声を聞いていた。止めるエンリケを横目に、ギルは熊から離れ、小さな池を飛び越えて渡る。一本の木に大きな岩がもたれかかっているが、その前で彼は立ち止まった。じっくりと観察して、彼は呟いた。
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