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「岩かー、邪魔だなー。…おりゃっ」
「「!?」」
ギルはひょいと大岩をどかし、その後ろに居た子熊を軽々と担いだ。子熊は弱っており、ギルが来なければ野垂れ死んでいたかもしれない。
「あー、怖かったなー。おーい熊ー、子どもは無事だぞー。ほれ、お母さんの所戻りな。」
「ヴゥッ…」
「おー、よしよし。アンタも心配だったんだよなー。」
「凄いのう、ギルの奴は…」
「はは、完敗じゃねーか…百点満点だよ、オマエは…!」
熊の母子を引き合わせたギルに、エンリケは笑って言った。エンリケは斧をゆっくりと降ろすと、ギルと肩を組んだ。
「流石だなー、正面からボコろうとしたオレがバカみてーじゃん。」
「んー、おれもそのつもりだったけど…なんかあっちから声聞こえたんだよなー。喧嘩はいつでもできるし。」
「いつでもって…つか声って何だよ……」
エンリケはツッコミを入れる。しかし呆れてはいない。むしろ感心しているのだ。ぼんやりとしているギルの元にオリーヴは近づき、「あの、」と話しかけた。
「お二人共…先程、此処がサンゲン島だと仰いましたよね?」
「おう。」
「良かった!…私が此処に来たのは、ある預言を賜ったからなんです。『怪力の聖なる能力者と共に、満月の夜出航せよ。その能力者はサンゲン島の少年である』と…まさか、その能力者というのはギル様のことだったのですね!」
「うん?」
「ギルが…能力者?」
「ええ。だって、あれだけの岩を子どもが片手で持ち上げるなど、人間技ではありませんもの。」
ギルはよく分かっていないようだったが、話を聞いていたエンリケは呆然としていた。知らない、理解できない。それでも、「有り得なくはない」と感じたのだ。大体、急に十字傷ができたり目の色が変わっているのだ。これ以上、何かが起きていても驚かないだろう。
「あー、もしかして目と額の傷も関係してる?」
「ええ、恐らくは…ギル様、貴方は旅に出るのが夢だと仰いましたね。できるだけ早く行かれた方が良いかと…」
「おうっ」
「それと、差し出がましいかとは思いますが…宜しければ、私もその旅に連れて行っていただけませんか?」
オリーヴはそう言うと、膝をついて深々と頭を下げた。ギルは真っ直ぐな目でじっと見下ろす。そんな状況でエンリケだけがわなわなとしていた。熊騒ぎが落ち着いたので、既にヴィンはいないのだ。
(いやいや、いきなり言われてもよう…流石に女を旅に連れてくなんてことは――)
「良いぞ」
「良いの!?」
ギルはあっけらかんと答えた。――快諾。それが彼の答えであった。ノープランだなどとエンリケは感じたが、これはギルとオリーヴの間の問題。口出しはしなかった。オリーヴは嬉しそうにお礼を言っていた。
「ありがとうございます…!では、これからよろしくお願いいたします。ギルさん――いえ、ギル様!」
「おうっ、よろしくな!」
「はいっ」
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