第2夜 山間集落ムグル

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第2夜 山間集落ムグル

 熊の騒動があった後、三人で帰路についていた。ギルとオリーヴは、釣りをしながら駄弁っていた。 「でさー、学校は一応出はしたんだけど難しい文読めなくてよー…」 「ああ、難しい本も多いですからね。」 「でも探険家の本は読んでるぞ!どれも面白そうなんだよなー!色んな果物が大きい島とか、宝石が取れる島とか!」 「良いですね、私も行ってみたいです。」 「おー、そうだなー。そういう所も寄ってみれば良いんじゃねーの?」 瞬間、ピタリと二人の動きが止まった。二人が揃って後ろを振り返るので、「何だよ」とエンリケは言った。 「いえ、いつもは止められるとのことでしたので…。」 「そういやエンリケ止めねェんだな。良いのか?おれ12歳だから?」 「それもあっけど…おばさんの性格からして、そんなに強くは引き止めねーだろ。つかオレだって遠出はしてみたいし、それにさっきの賭け――」 「おおーっ!やっと冒険の良さが分かったかー!子どものうちに出かけねェと楽しめねェと思うんだよなー!」 「だから、オレだって遠出には…って聞いてねェか。」 自由の権化かよ、などとエンリケは呟いた。エンリケだって、ギルが船出する際は着いていこうと前々から思っていたのだ。楽観的な彼が一人で旅立つよりかは、ずっと良いだろうと。それを知る者は、彼自身の他には誰もいない。  ギルの家に着くと、玄関でベルベットに出迎えられた。熊の騒動を聞いて、心配していたのだ。 「ギル、エンリケ、オリーヴちゃん!皆大丈夫だった?」 「おう!子熊助けてやったら、帰ってったぞ。」 「あら、じゃあギルがやったのは本当なの?カッコいいじゃん。」 ベルベットはギルの頭を撫でる。ギルはきゃらきゃらと笑いながら、「あ、母ちゃん」と言った。 「おれ、近いうちに旅に出る。エンリケとオリーヴと一緒にな。」 「えっ」 「エンリケには早いって止められてたけど、おれ熊にも勝てるしもう12だぞ。」 どうだ、と言わんばかりに、ギルは誇らしげな顔をして言う。唐突な、と見つめるエンリケ、うんうんと頷き目を輝かせるオリーヴ。暫く考えてから、ベルベットは口を開いた。 「そうねェ…ま、良いんじゃない?」 「「えっ」」 「ほらな」  エンリケの予想通り、ベルベットはあっさりと快諾した。ギルやオリーヴは喜びのあまり飛び跳ねており、エンリケはいっそ腹を括った。――こうも上手く事が進むと、ある程度の覚悟は必要だ。 「ね、いつ出発すんの?」 「今度の満月の夜ー」 「じゃああと20日くらいね。でも船どうすんの?ここ島じゃん。」 「「あ…」」 ギルとオリーヴは失念していた。サンゲン島は小さな島であるし、世界には小島がたくさんある。大海原を旅するには、船が必須である。 「…し、仕方ねーな…オレがいっちょ前に良いモン造ってやるよ!」 「「本当!?」」 「おうよ。」 「あっ、小舟じゃ保たないから気をつけなさいね。」 「分かってんよそんな事は…!うおお、腕の見せ所だぜ!」 「エンリケさん、嬉しそうですね。」 「エンリケん家はみんな漁師だけど、コイツ自身は大工やりてーんだって。」 「素敵ですね。」
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