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ふふ、とオリーヴは笑う。何だかんだ、エンリケは船を造りたいのだ。ならば、船大工は彼に決まりでしょう――そんなことを考えていた。
「エンリケ、ずっと籠もってんな」
「ですね」
その後、エンリケは部屋に籠もって設計図を書いていた。エンリケの親から軽食を運ぶよう頼まれていた二人は、ノックをして彼の部屋へと侵入する。
「入るぞ…って何だこりゃ」
「設計図だよ…構造が分かんなくてな、考えてたんよ…何が要るとかよく分かんねーし、外装も書けなくてな…」
床中に設計図が散らかっており、机に向かって座るエンリケは頭を抱えている。ペンを持つ気力もないようだ。
「ダメだ…良いの全ッ然浮かばねェ…」
「どうしましょう…」
「決まってんだろ…オレら三人共、海のことを知らなすぎる。適当に造っても大変なことになるのは目に見えてんだ。」
「じゃあどうすんだ?」
「…航海士、呼んだ方が良いんじゃねーか?」
「コウカイシ?って何だ?」
ギルは尋ねる。ギルにはどうも、世間知らずな所がある。しょっちゅう近海に出たり、漁師の家族がいるエンリケとは違う。ギルはこの村から出たことがないし、外部との交流も少ない。エンリケはため息をついて言う。
「航海にはある程度知識が要るんだよ。波とか天気とかを見て、どの方角に進めば良いかを見る、航海術がな。専門的なのだと航海学っていって、まともな航海士になるならこれを学ばなきゃなんだが…オレらみたく旅すんなら、地図読んだり書いたりもできた方が良いな。」
「ほーん…良いな、それ!じゃ、航海士探そう!」
「航海士がどうした?」
三人は思わず振り向いた。ドア付近に、一人の男が立っていた。オーバーオールをゆるりと着た髭面の彼は、何やら膨らんだ袋と釣竿を手にしている。ギルとエンリケは表情を明るくさせた。
「あっ、ティムールじゃんヤッホー!」
「ティムール!!」
「うおっ!?」
ギルはティムールに抱きつき、オリーヴは宙に浮いた袋を受け止めた。中を見ると、大量の魚が入っている。
「凄い…これだけの魚をお一人で?」
「おっ、嬢ちゃんコイツらのお客か?俺はティムール・ヤシュドだ。ティムールでもティムでも、好きに呼んでくれ。」
「ティムールは釣りが得意なんだぜ。うちの村の奴らよりも上手いとか何とか。大人たちは“釣りの鉄人”って言ってんよ。」
「誰だよソレ言い始めたの…」
ティムールは釣竿を立て掛け、近くの大きな水桶に魚を入れながら言う。この水桶はエンリケの家のもので、ギルも何度か見たことがある。しかし、ティムールはそこに堂々と自分の魚を入れている。どんな関係があるのか――先にそれを尋ねたのは、客人であるオリーヴであった。
「あの…ティムールさん、随分と此処に慣れてらっしゃるといいますか、その…エンリケさんのお家とはどのようなご関係で?」
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