9人が本棚に入れています
本棚に追加
その後も生徒が答えては教師が解説し…といった小問演習が続き、やがて授業時間50分が終わる。チャイムが鳴り教師が教室を出ると、生徒たちは一斉に騒ぎ始める。今日は職員会議のため午前授業。故に、この後はホームルームさえ終われば即帰宅だ。それに、小問演習のあとは感想を言い合うことが多い。
「ねー、最後のやつ分かった?アタシ分かんなかった!」
「それなー?」
「てかあの揃えるやつ本当苦手―。あれ答えられる奴凄くね?」
「だよな。本橋とか。」
「あー…。」
最後、自分の名前が出た後微妙な空気になるのだけはやめてくれ。気まずい。本橋は一瞬そう思ったが、すぐにどうでもいいと思い始めた。別に、悪評なぞ今更といったところだ。それよりも、と朝のニュースについて考える。――もし、もしも。穏やかな帰路で、心獣に遭遇したら。大した強さじゃないのは分かっているが、何故こうも死傷者が増えているのか。本橋はそれが不思議でならなかった。ホームルームは安全確保も兼ねて、あっという間に終了した。掃除もない。今朝何も言わず置いていったからか、幼馴染からは「どうした、課題終わってないのか?」「帰りは一緒でいいよね、教室来いよ」などと着信がうるさい。どのように返信しようか、迷っている時。
「――ねえ、本橋。折角だし、一緒に帰らない?確か方向同じだよね?…それに、心獣怖いし。」
「俺はオマエのその度胸、十分すげェとは思うけどな。…まァいいか、帰んぞ。」
「おけー。」
決めた、たまには此奴とでも帰るか。多分、この変な退屈さは刺激を求めているからだろう。彼奴と帰るのはいつものことだ、だからあえて今日は。――そう考え、本橋は幼馴染に「悪い、今日は別の奴と帰る。明日は絶対行く。」と返信し、携帯を鞄に突っ込むと上野とともに教室を出た。
下駄箱でスニーカーに履き替えると、鞄を揺らしながら校門を出る。名を知られたヤンキーと真面目な女子生徒。傍から見れば異様な光景だし、そういう関係に見えなくない――しかし自分たちはあくまでただの同級生で、監視役とその対象で――本橋はそんなことを考えていた。おかげで上野が話しかけていることにも気づいていない。
「――ちょっと本橋!聞いてんの⁉」
「あー…悪ィ、何て言ってた?」
「やっぱ聞いてなかったんじゃん。どうせ、しょうもないこと考えてたんでしょ?」
「バレちった。」
「もうっ!」
感情が顔に現れやすい上野は、口をとんがらせてため息をつく。一方、本橋はとぼとぼと歩みを進める。
「――なあ、オマエん家どっちだ?」
「アタシ?アタシは11番街の方。」
「じゃ、郊外か。結構距離あんのな。俺は3番街抜けたらすぐだな、だからそこまでだ。」
「分かった。」
新東京では主な街や住宅街を除いて、基本的には何番街、と場所を表現することが多い。これは方角や距離を表し、1番街を北として、時計回りに割り振られることが多い。11番街は3番街と同じく、学校から見て東方面にある。雑談をしながら、二人は共通の帰路である3番街へと入る。
最初のコメントを投稿しよう!