9人が本棚に入れています
本棚に追加
「あれ、いつも此処通ってる筈なんだけどな…なんか、いつもと雰囲気違くない?」
「ああ。――何か、いるな。」
3番街は白いアーケードの下にあり、天井を見れば所々ステンドグラスが見られることで有名だ。だから日は程よく差し込むはずなのだが、何故か全体が暗い。不気味な雰囲気が漂っている。本橋は、この原因に当てがある様子である。
「何かって…」
「キャアアアッ」
前方から悲鳴。そして、おどろおどろしい見た目のバケモノの姿。――心獣のおでましである。
「え、心獣⁉」
「チッ、現れやがったか…。上野、ちょっと下がってろ。俺は此奴を片付ける。」
そう言うと本橋は、鞄から黒いグローブを出し、手にはめ始めた。本橋がやらんとしていることは一つ。
「片付けるって…まさか――」
「ああ。――此奴は俺が片付ける。」
本橋は心獣に向かって駆け出すと、高くジャンプをした。そして、何やら白くチカチカする何かを拳に纏い、右ストレートを入れる。心獣にめり込むとぐにゃりと曲がり、触れた手から電流が伝う。本橋は反動で跳ね飛ばされるが、片手をついて着地。今度は右足に電気を纏わせ、助走の後に左足を軸に跳ねる。そして、回転蹴りをお見舞いした。
「あーあ、大人しく過ごそうって決めてたのによお…おい、怪我ねェか?」
「あ、うん、大丈夫だけど…アンタの“暴れる”ってこういうことなの?」
「おう。何か問題あるか?」
「いや、問題というか…」
完全に予想外だった。監視を頼まれた相手が能力者、ましてやこの様子だと、人に危害を加えるような暴れ方はしていないのだ。三番街にいた他の人々も、軽やかに心獣と戦う本橋を夢中になってみている。
「ねェ、あの子噂のヤンキーだった気が…」
「だよね。まさか能力者だったなんて…!」
「しかもこれ、退治してる…?」
本橋は周囲の声など気にせず、一人戦い続ける。襲い掛かる心獣を避け、一般人に危険が迫ればそれを止めに入る。突如、本橋はスウッと大きく息を吸う。
「――此処にいる全員!今すぐ外へ!…早く!」
突然の指示に戸惑う人々。当然だ、バケモノがいる中、突然避難指示が出たのだから。上野は見ているだけの自分に我慢ができなくなり、続けて叫ぶ。
「皆さん!此処は危険です!彼が足止めしているうちに、今!逃げて下さい!」
「上野…!」
「アタシには能力はないわよ。けど、見てるだけじゃ我慢ならないの。何か手伝えることがあれば言って。足手まといにはなるかもだけど…」
「いや、ありがとう。――ひとまず、コイツさっさと祓うか。」
本橋はもう一度バチバチと火花を散らし、電流を出す。そして、踏み切ると突き上げるようなパンチを入れる。その衝撃で、心獣は消滅した。逃げていた人々もそれを見て、歓声をあげる。――退治、成功である。
最初のコメントを投稿しよう!