#121 袂を分かつ者

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「…ルーク様って、此処の幹部なんですよね?」 「ああ。一応な」 「じゃあさ、この世界での闘い方も知ってるんでしょ?…ウチのことも鍛えてくれますか。ウチも、ルーク様みたいに強く優しい人になりたいんです」 「…俺の弟子に…武術くらいしか教えてやれねーぞ」 ルーク様は、ウチの願いを受け入れてくれた。ウチはルーク様の元で、確かに強くなった。厳しかったけど、おかげで今こんなに戦えてる。でも、修行を初めて2週間で、ルーク様は社安に行ってしまった。ウチらには何も言わずに。 「“(やつ)叩き”」  “ラ・ウォーレ”は、部屋のあちらこちらに壁を出現させ、相手を追跡していた。対する塔屋はそれを躱し、一度たりとも当たっていない。 (あの頃と変わってない…でも、届かない…) 「どうした?そんなんじゃ俺を殺せないぞ?オマエ、“ホオズキ”ん所にいるだろ?隊長に言われたんじゃないのか?『“ルーク()”を殺せ』と。」 「ッ、でも今此処にいるのはウチですよ!ウチを見てください、ルーク様!」 “ラ・ウォーレ”は4箇所同時に壁を生やした。流石に完璧には避けきれず、塔屋の左手には鋭い痛みが走った。目立つ傷ではないが、手首から指先へと血が滴り落ちていた。 「しくった…」 「指だったら指輪みたくなったのに…精進します」 「んな正確さは要らん。…ほら、続きだ。」 「やっとこっち見てくれた!ルーク様、ウチ成長したでしょ?もっとウチを見てください!貴方がいなくなってから、ウチずっと鍛えてたんですよ。ルーク様に教わったルーティンで、教わったポイントは一言一句忘れず呟きながら…ルーク様、もう一度指導してください!此処で、もう一度!やり直しましょう!今度はウチが、貴方を守ります!」  “ラ・ウォーレ”は塔屋を囲うように壁を出し、じりじりと詰めていく。しかしただでやられる塔屋ではない。塔屋はポケットから何かを取り出すと“ラ・ウォーレ”に投げた。同時に右足のバネで床を蹴り、閉鎖空間から離脱した。 「残念だが、その誘いは受けられないな。生き方は決めたと言っただろう。だが、餞別に稽古くらいはしてやる。」 「ち…チェーンソー使っていただけるんですか!?」 (何でコイツ興奮してんだ…?) 塔屋はスターターハンドルに指をかけ、エンジン音を響かせる。斬られた壁の残骸は消え、“ラ・ウォーレ”の残滓だけがこびりついている。「勿体ないことしたな」そう呟くと共に、“ラ・ウォーレ”は再びあちこちから壁を生やした。 「やっぱルーク様を捕まえるのって難しいですね…」 「俺を殺すよう言われてるんじゃなかったか?」 「それは最終手段ですよー。隊長も、ルーク様が戻ってくるの楽しみにしてるんですよ?まあアイツに従うことになるのは癪ですけど…今だけでもこうして話せるの、凄く嬉しいんです!」 「そうか。それじゃ鬼ごっこにするか。どっちか捕まえられたら、ソイツが勝ちな。ちゃんと殺気を向けろ。」  二人は同時に床を蹴り、互いに手を伸ばした。“ラ・ウォーレ”は壁で妨害しつつ、死角を作って確実に捕まえるつもりだ。塔屋はそう予想し、チェーンソーを振り回しながら煙幕をまく。 (ついでにこの部屋()もぶっ壊してェな…煙幕は、もう要らねェか) 「“千円駆者(せんくしゃ)”」 塔屋はチェーンソーで斬りつけながら何度も回転し、火花を円状に散らす。まるで花火のようだと、“ラ・ウォーレ”は見惚れていた。それでも、攻撃をやめはしない。
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