#122 キョウダイ

1/6
前へ
/712ページ
次へ

#122 キョウダイ

 道を違えた師弟の二人。聖夜の戦いの結末は、師の圧勝であった。 「これが答えだ。俺は戻らない」 「…やっぱルーク様は強いや…はは…」 “ラ・ウォーレ”は痛みを堪えながら言った。彼女の左肩にはナイフが刺さっているが、塔屋はそれを抜く気はないらしい。例え敵になろうとも、弟子の負担はできるだけ減らしたいようだ。 「…手ェ、どかしてくれませんかね…」 「出血量が増えるからおすすめはしないぞ。…悪い、こっちの手は邪魔だったな。…本当は、殺しも暴力もしたくなかった。此処にいる間も、ずっとな。」 「…それが、抜けた理由ですか…?」 首元の手が離れ、“ラ・ウォーレ”は呼吸を整えてから問う。塔屋は無言で頷いた。弟子は再び問う。「本当に、それだけですか?」 「一番の理由はそんな所だ。…が、もう1つある。オマエが弟子入りしに来たあの時、俺は大人を信用していないと言っただろう?此処の幹部は全員、敵だと思ってきた。其処のドア、俺の指紋は登録されてないんだぜ?俺の部屋なのに…ここまで言えァ、此処での俺の扱いは想像できんだろ。俺は外の世界、“普通”は何か知りたかった。そのためには、此処で大人しくする訳にはいかなかったんだ。」 塔屋は、破壊された壁を見ていた。隙間から僅かに光が入り、それが彼らを照らしていた。「初めてだ、此処で光を見るのは」塔屋は呟いた。少し綻んだ顔を見て、“ラ・ウォーレ”は何も言えなくなってしまった。 「…外も電気が付いているんだったな…悪いが、俺はもう行く。はやるが、なるべく動かない方が良い。…じゃ」 「待って、ルーク様!」  塔屋は弟子から離れ、隙間へと向かっていく。まずは保南と合流したい。そのためには、此処から廊下へと向かう必要がある。そんな彼を、“ラ・ウォーレ”はあと少しだけと引き留めようとする。 「嫌です、置いて行かないで!…ウチ、成長したと思ってたのに!」 「すまない…すまない、暦。…オマエはもう、とっくに一人前だ。認めないわけがない。」 「…ルーク様」 “ラ・ウォーレ”は悔しさから涙を溢した。足りなかった、何もかも。彼は自分の努力を認めてくれたが、それでも実力差がありすぎる。彼女では塔屋を引き留めることはできなかった。塔屋は俯き、前へ前へと進んでいく。 「誰かと思ったら…待ってたぜ、新祇」 「…姉ちゃん」  新祇と古市は、ビルの8階に来ていた。エレベータを降りた正面には、扉の全面開放された大会議室があった。その中から2人を待ち構えていたのは、新祇の双子の姉で、元護民団員――宿城原撫であった。 「古市さん、この人がおれの姉ちゃんッス。…驚いたよ。ピンッピンだし、“ペルソナ族”の準幹部だなんて。」 「ああ。黙ってて悪かった。…その感じだと、“毒蜘蛛”はちゃあんと黙ってたんだな。“1の使者”も健気なこった。仲間の中に2人も、内通者が居たんだからな。ここまで来ると、(かしら)としちゃあちょっと無防備すぎる気もするなァ」 「アニキを酷く言うな!」 新祇は原撫に殴りかかった。しかし、彼女の能力は身体強化――呆気なく躱され、むしろ新祇が窓際へと投げられてしまった。
/712ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加