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#122 キョウダイ
道を違えた師弟の二人。聖夜の戦いの結末は、師の圧勝であった。
「これが答えだ。俺は戻らない」
「…やっぱルーク様は強いや…はは…」
“ラ・ウォーレ”は痛みを堪えながら言った。彼女の左肩にはナイフが刺さっているが、塔屋はそれを抜く気はないらしい。例え敵になろうとも、弟子の負担はできるだけ減らしたいようだ。
「…手ェ、どかしてくれませんかね…」
「出血量が増えるからおすすめはしないぞ。…悪い、こっちの手は邪魔だったな。…本当は、殺しも暴力もしたくなかった。此処にいる間も、ずっとな。」
「…それが、抜けた理由ですか…?」
首元の手が離れ、“ラ・ウォーレ”は呼吸を整えてから問う。塔屋は無言で頷いた。弟子は再び問う。「本当に、それだけですか?」
「一番の理由はそんな所だ。…が、もう1つある。オマエが弟子入りしに来たあの時、俺は大人を信用していないと言っただろう?此処の幹部は全員、敵だと思ってきた。其処のドア、俺の指紋は登録されてないんだぜ?俺の部屋なのに…ここまで言えァ、此処での俺の扱いは想像できんだろ。俺は外の世界、“普通”は何か知りたかった。そのためには、此処で大人しくする訳にはいかなかったんだ。」
塔屋は、破壊された壁を見ていた。隙間から僅かに光が入り、それが彼らを照らしていた。「初めてだ、此処で光を見るのは」塔屋は呟いた。少し綻んだ顔を見て、“ラ・ウォーレ”は何も言えなくなってしまった。
「…外も電気が付いているんだったな…悪いが、俺はもう行く。それはやるが、なるべく動かない方が良い。…じゃ」
「待って、ルーク様!」
塔屋は弟子から離れ、隙間へと向かっていく。まずは保南と合流したい。そのためには、此処から廊下へと向かう必要がある。そんな彼を、“ラ・ウォーレ”はあと少しだけと引き留めようとする。
「嫌です、置いて行かないで!…ウチ、成長したと思ってたのに!」
「すまない…すまない、暦。…オマエはもう、とっくに一人前だ。認めないわけがない。」
「…ルーク様」
“ラ・ウォーレ”は悔しさから涙を溢した。足りなかった、何もかも。彼は自分の努力を認めてくれたが、それでも実力差がありすぎる。彼女では塔屋を引き留めることはできなかった。塔屋は俯き、前へ前へと進んでいく。
「誰かと思ったら…待ってたぜ、新祇」
「…姉ちゃん」
新祇と古市は、ビルの8階に来ていた。エレベータを降りた正面には、扉の全面開放された大会議室があった。その中から2人を待ち構えていたのは、新祇の双子の姉で、元護民団員――宿城原撫であった。
「古市さん、この人がおれの姉ちゃんッス。…驚いたよ。ピンッピンだし、“ペルソナ族”の準幹部だなんて。」
「ああ。黙ってて悪かった。…その感じだと、“毒蜘蛛”はちゃあんと黙ってたんだな。“1の使者”も健気なこった。仲間の中に2人も、内通者が居たんだからな。ここまで来ると、頭としちゃあちょっと無防備すぎる気もするなァ」
「アニキを酷く言うな!」
新祇は原撫に殴りかかった。しかし、彼女の能力は身体強化――呆気なく躱され、むしろ新祇が窓際へと投げられてしまった。
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