#122 キョウダイ

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「流石に弟をバカスカ蹴る趣味はないんだがなァ…ま、人を連れてきてくれて助かったよ。“記憶立証人”、貴重な特級だったか…コイツは人質にする」 「え」  原撫は古市を会議室の隅目掛けて蹴った。古市は壁に軽く打ち付けられながらも何とか着地したが、先程までと床が異なっていることに気が付いた。彼のいる3畳程だけ鉄板が敷かれており、高さも明らかに違う。それに、何だか足が動かない。 「あれ、足…」 「その板には電磁誘導が仕込まれてる。悪いな、巻き込んじまって。」 「な」 板の四方に、鉄格子が現れる。天井まで届く程高い檻に、古市は閉じ込められてしまったのだ。新祇は思わず駆け出した。 「古市さん!」 「オマエの相手は私だろ。…っと、この場ではまだ名乗ってなかったな。私は宿城原撫。アンタらも知っての通り、護民団団員――それは仮の姿だった。今の私は“ペルソナ族”諜報部隊副隊長、“シューター”だ」 「…諜報部隊…」  新祇は身構え、“気”を溜め始めた。双子の片割れなのだ、実力は何となく分かる。目の前の少女・“シューター”が手強い相手であることくらい、新祇は痛い程分かっていた。 「勇ましいな。良い師匠に出会えたんだな。それと、力にも。この間、“毒蜘蛛”が『グリモワール』を持ち出した。それでオマエは正式に宿城家当主として目覚めた。…違うか?」 「ッ、何でそれを…」 「今まで隠してもらってたかんな、私も奴の裏切りを見逃したんだよ。アイツが気付いてたかは知らないけど。」 (渋谷くんの“記憶”じゃ、そんな様子はなかった…多分、本当に奇跡だったんだ) 古市は、自分が見たものを思い出す。渋谷が『グリモワール』を盗んだ時、パイプ管だらけの地下室に彼一人だけだった筈だ。彼の視界に、彼女の姿は入っていなかった。仮に居たとしても、本当に渋谷は知らなかったのだ。“シューター”は話を続ける。 「さて…当主となったオマエに、姉ちゃんから試練だ。…サシでやり合おう。応じなきゃ、其処の特級サマを殺す。さあ、どうする?」 「新祇くん――」 「…やるよ。ここまで来たら、やるしかないだろ。」 「良い心意気だ。…“DELTAROME(デルタルーム)”起動」  部屋の中に、巨大なドームが現れた。新祇と“シューター”を包み込む形で展開されたそれは、まるでマジックミラーのようだった。外にいる古市からは中の様子が見えるが、新祇から彼の姿は視認できない。新祇は、古市と引き離されてしまった。 「これは…」 「人工的な結界みたいなモンだ。分かってるだろうが、社安や護民団が此処に来るのは想定内、裁量はこっちにある。結界の解除条件は、私かオマエか、どっちかが死ぬこと――それだけだ。」 「おうよ」 「さあ――オマエの全力を魅せてみろ、宿城新祇!」 「新祇くん!」 古市の言葉は届かず、中の二人は同時に地を蹴った。新祇は溜めていた“気”を炎に変え、飛ばし始めた。 「“レッドバズーカ”」 「火力上がったな。焔岳さんの力か。だが、“DELTAROME”は耐熱耐水性…此処の温度が上がるだけだ。」
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