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「良いじゃん、おれサウナ好きだよ。最近たまに行くんだよね。」
「同居人にでも連れてってもらってるのか?誰だ?」
「教えないよ。何ならもっと暑くしようか?」
「新祇くん!」
古市は叫ぶ。見えないのなら、声で伝え続ける――そんな危険な勝負はしてほしくないと。新祇には届いていないようだが、仮に届いても新祇がやめるとは思えない。それでも、古市は無事を祈るしかなかった。古市は火というものにトラウマがある。それもあって、二人の殺し合いを見せられるこの状況は、彼にとって相当な苦痛であった。敵であれど人間、ましてや未成年者に死んでほしくはない。そんな古市を差し置いて、装置内の死闘は続く。
(古市さんの声は聞こえないけど、多分おれたちに戦ってほしくないんだろうな。でも、姉ちゃんは多分止まらない。だから、おれも止まる訳にはいかないんだ。)
「考え事か?やめとけよ、殺しちまうぞ。」
「そっちこそ。…ね、そんな仮面外せよ。そっちも考え事してんじゃないの?フェアじゃないよ。」
「…言うようになったなァオマエ…」
“シューター”は、白い無地の仮面を外した。仮面は装置の外めがけて投げられ、カランと床に落ちた。額から顎まで覆われていた素顔が、露わになった。新祇が知っている姉よりも険しく、大人びた顔つきだった。双子であれど、自分とは全く異なる人生を歩んできた人間なのだと、新祇は実感した。
「これで満足か?」
「格好良いじゃん。それじゃ、おれも姉ちゃんの期待に応えるとしますか。――“水弾”」
新祇は手を合わせ、指の隙間から力強く水を放った。本物の銃のように鋭いそれは、“シューター”の脇を掠った。直撃こそ免れたものの、彼女は体勢を崩した。珍しいことであった。
「…氷…を、応用したのか」
「氷使いの師匠ができたんだよ。アンタの言う通り、確かにおれの手札は増えたよ。」
「ああ、そのようだな。だが、私を動かす段階にはないな。…まだだ。膝でも手でも、この身体が地面につくまで、オマエの欲しい情報はやらん。」
「ッ、何がアンタをそこまで――」
「“スピン・ド・シュート”」
形勢逆転。“シューター”は右足、左足の順で交互に回転させ、華麗な足さばきで弟を蹴り出した。鞠のように飛ばされながらも、新祇は必死に喰らいついていた。
「姉、ちゃん…何でそっち側に…何で、裏切ったの」
「この状況で聞けると思うか?」
「うあっ、くっ…ふ、“フローズ”――」
「そういう物理攻撃は効かねーよ」
“シューター”は、新祇の出した氷を脛1本で止め、破壊していた。凍傷にでもなりそうだが、散々足技を使っていたためかある程度足は暖まっているらしい。氷塊を物ともせず、むしろ新祇の方が折れる形となった。
「ケホ…何で父ちゃんと母ちゃんを殺したんだ…」
「あー、あのクズ共か?良かったな、アイツら死んだおかげでオマエは自由になった。私も嫌いだったし、ハッピーエンドだろ」
「やりすぎだってんだよ!確かに、二人には酷いこともされたけど…それでもおれたちにとっては肉親なんだ、おれは嫌いになってない。…何で殺したの。何で、あんなことを…!」
(さっきより水圧が強い…)
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