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新祇の水砲は、ピストル級から大砲級へと変化していた。“シューター”は次の攻撃を期待しつつ、弟の質問への答えを練っていた。彼女は、弟には隠し通すつもりだったらしい。攻撃をしても顔色一つ変えず避けられ、押し問答が続いている。そんな状況に、新祇はとうとう痺れを切らしたのだった。
「…なあ、聞いてるのか?」
「…」
「…答えろよ、“シューター”!」
「…その名前で呼ぶんじゃねェ」
“シューター”も遂に動き出した。彼女は背後から新祇の左の袖を掴み、体勢が崩れたところに投げ技をした。そのはずみで彼の左袖は完全に破け、ローマ字の“5”がうっすらと見えるようになった。“シューター”は眉間に皺を寄せ、「それだけは許さない」と呟いた。
「オマエにだけは、コードネームを呼ばせたくない」
「何なんだよ、さっきから…!」
「私のエゴだ。…それこそ、親殺しをしたのも。」
「え」
“シューター”はポケットから拳銃を取り出すと、新祇のこめかみに向けた。少しでも動けば撃つぞ、との警告だ。流石に新祇も黙りこんで、姉の話を聞くことにした。
「…気が変わった。話してやる。宿城家は、私らにとっては父方の家系だ。かつては御三家として一目置かれ、中でも頂点に君臨していた。それは、『グリモワール』と全知全能の能力によるものだった――そこまでは知ってるな?」
「うん」
「でも親父は、そのプライドの欠片もなかった…頂上戦争の生き残りとはいえ、とことんクズに成り下がった。母親もそうだ、アイツは救いようのないクズだった。クズは裁きを受けるべきだ、そういうのが世論だろ。知ってるか?アイツらの罪を…アイツらは小物で、誰にも裁かれない。だったら、娘の私が裁くべきだ。…ここまで言えば、分かるだろ?そこの刑事サンも、これには何も言えなくなる筈だ」
新祇も、外野の古市もはっとした。宿城原撫、彼女は齢14にして復讐者、審判者になったというのだ。その言い分にはどこか合点のいくものがあった。SNSを見ればそういう意見も多いし、古市に至ってはちょうど被害者、またその遺族になった経験がある。そうした意味で言っているのならば、何も言えまい。古市はそう考えていた。それでも、新祇にとっては違った。彼は沈黙の後に、ようやく口を開いた。
「…姉ちゃんは、殺しに良し悪しがあると思う?」
「ああ。勧善懲悪って知ってるか?悪を滅するためには、時には自分も悪になることが必要だ。悪でしか裁けない悪もいる――私はそう考えている。」
「じゃあ、“悪を裁く悪”が止まらなくなったら?やりすぎて、むしろそっちが裁かれる側になったら?姉ちゃんは、それでも続けるの?」
「…続けるしかないだろ。ずっとそれだけやってきたんだから」
「そうか――なら、今度はおれが裁く番だ」
新祇は拳銃を姉の手ごと凍らせると、その腕を振りほどいた。手を合わせ、指以外を浮かせて円を作る。
「新祇…オマエが、私を裁く?私が落ちぶれているとでも言いたいのか?」
「おれ知ってるよ。これまで姉ちゃんが死に関わった人間は、既に100人を超えている。うちの3分の1は、姉ちゃんが直接手を下している。組織の命令でやったものが多いけど、姉ちゃんがエゴで殺した人間も同じくらいいる――」
「根拠は?」
「さっき認めただろ?『グリモワール』――おれの当主権限でね!」
新祇は手で作った円から、大量の水を放った。再び、“ブルーバズーカ”の出番である。能力を複数同時使用し、更にそれを高密度に組み合わせたものを強く、長時間放つのだ。一体どれだけの負担を自分に強いているのだろう――古市は、彼の身体を心配していた。
「新祇くん、それ以上は危険だ!無理すれば、殺されずとも君が死ぬことに――」
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