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ルイスとキャロル
翌日、青空が広がる午後、浜辺の見えるベンチにルイスは座っていた。そこへ、同い年の彼女キャロルがやって来た。
肩までの金髪縦ロールに、カールしたまつげにツヤツヤしたリップを塗った赤い唇、淡い水色のワンピースにエナメルの靴が似合っている。お人形のような女の子だった。
キャロルは縦ロールを揺らしながら、ルイスに可愛い笑顔を向けてきた。ルイスも笑顔で迎え、キャロルは膝を密着させるようにルイスと向かい合って座った。
「奇石が出てきたの!」
「やったね!」
ルイスはキャロルのキラキラする瞳を、負けないくらい見返して、肩に寄りかかるキャロルに優しく身を寄せた。
「それで、どんな願いにするのか、決まってる?」
ルイスは返答次第では、喜んでる場合じゃなくなるぞと思った。
「まだ。なんて願ったらいいか、わからなくて。夢はあるんだけど」
「そっか、焦ることないよ。僕達はまだ15なんだ⋯⋯ちなみに、夢って?」
ルイスは肩の力を抜いて、キャロルの相談相手に徹しようと思った。キャロルはフフッと笑って、ルイスの視線を釘付けにさせると、縦ロールを指先でいじった。
「ルイスにだけだからね」
「誰にも言いません」
「私、フフッ⋯⋯王子様と結婚したいのぉ!」
女性の話を無闇に笑ってはいけない、微笑むんだ。父の教えを思い出し、ルイスは微笑んだ。
「お、おう、じ」
ルイスは微笑みに全力を出したせいで、言葉が上手く出せなかった。
「だけど、私、お姫様になる自信がない⋯⋯」
キャロルは力無く呟いた。ルイスはうつむくキャロルの肩に優しく手を置いた。
「大丈夫だよ。王子様と結婚しようと思えば、出来る世界なんだ。それに、キャロルなら……キャロルの将来はお姫様だよ」
「ルイス……」
奇石にお姫様になりたいと願えば、王子様と結婚の可能性が生まれる。ルイスはキャロルと読んだ本で、成功体験談を知っていた。
キャロルが叶えられないことはないとルイスは思った。さっきは、不意を突かれて笑いそうになったが、キャロルは本気だと、ルイスはよく知っていたからだった。
だけど、そうなったらキャロルとはお別れかなと、ルイスは呆然とした。
王子様相手にこの普通過ぎる自分がどう戦えば……戦わずして敗北しそうなルイスを、キャロルが潤んだ目で見つめてきた。
「ルイスが王子様になってくれたら、いいんだけどな」
ルイスは背もたれがなければ、後ろにひっくり返っていたはずだ。
「僕が、王子様に!?」
ビッグバン級の衝撃をうけるなか、ルイスは冷静に意味を考えた。僕がキャロルの王子様に。僕がキャロルの王子様でキャロルは僕のお姫様、それって。
ルイスが確認のため見てみると、キャロルは頬を赤く高潮させて、キラキラした真剣な目で微笑んでいた。
ルイスは自分の考えていることは、間違いないなと確信した。
「そしたら、私はルイスのお姫様」
逆プロポーズのドキドキに浮かされながらキャロルはルイスの肩に頭をあずけて片手でしがみつき、ぴったりくっついた。
「そうなったら奇石は、他にいい使い方が見えてくると思うの。やっぱり、傷を癒す力かしら?」
キャロルは空を見上げて夢想した。
「ルイス、願い事決まったら、教えてくれるって言ったよね? どう? 決まった?」
ルイスの願い事候補の中に、王子様と天秤に掛けられるようなものは、あった。
「僕は、ドラゴンに関わる仕事をする為に役立つ使い方をしたいんだ⋯⋯だけど、それが上手く思い浮かばないんだ」
ルイスは小さい頃、遊園地でドラゴンの背中に乗る体験をして以来、ドラゴンに夢中だった。父から、あのドラゴンはオトギの国から特別にやって来たのだと聞いた。
ルイスは大人になったら、オトギの国にあるというドラゴンと暮らせる町に住みたいと思っていた。
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