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2マリエのお仕事
マリエの父と母は、マリエが17歳のときに事故で亡くなった。弟のフランソワは14歳で多感な時期だった。
フランソワはショックで呆然としていた。だから、私が何とかしないと思った。
あの日。いつもと変わらなかった。
「今日は、どうするんだい?」
父が毎日勉強と仕事の手伝いをするマリエに尋ねる。
「あんまり無理しちゃだめよ? おじいさまの仕事が楽しいからって、自分の勉強もしてね」
母は最近マリエがどっぷり父の仕事や商会の仕事の手伝いをしているのを心配していた。
働いてもいいけれど、マリエにはやりたいことを見つけて、自由に楽しんでほしいと言っていた。
「急がなくても、いつか大人になるのだから」
母は穏やかな笑みを浮かべた。母は淑やかな美人で、若いときは縁談がひっきりなしに来ていたという。
母もまたおじいさまの商会の手伝いをしていたところ、父と恋に落ちて結婚したという。
「わかるわ。でも、習った言語が仕事で役立つとか、すごく嬉しいのよね。勉強が無駄にならないって素敵よね」
マリエの言葉に父と母は顔を見合せ苦笑する。
「やれやれ。商人の子だな」
父は呆れたように、でも温かくマリエを見守る。
「私たちは、きょうは仕事で王都へ向かうけど……。フランソワのことを頼めるかしら」
「いいわよ。きょうはおじいさまのところの仕事はないし。フランソワはたぶん今日もローレンスとキミ―のところに行くんだと思うわ。もうすぐ王立学校に入るんだし、ローレンスたちの準備も手伝ってくる」
「そうだね、ローレンスとキミ―の手伝いもしてあげてね」
母はにこりと笑った。
「もちろんよ、任せて」
ローレンス、キミ―は生まれた時から、私の年下の友人でもある。
父と母はそれからすぐに馬車で王都へ向かったのだが、途中でがけ崩れに巻き込まれ亡くなった。
インフラ整備がまだ整ってないせいだ。
もしあの時私が行かないでって頼んだら、お父様とお母様は生きていたのかもしれない。
マリエは唇をかみしめた。
どうして? なんで? お父様とお母様が死ななきゃいけないの? 悪いことなんてしてないのに。
父と母が急にいなくなり、どうしたらいいのかわからなかった。こんなことは想定していなかった。自分の人生計画にはなかった。
フランソワとマリエは取り残された。
フランソワはショックのあまり1週間口がきけなかった。
私がなんとかしなくちゃ。
マリエは涙を拭いた。
駆け付けてくれたおじいさまはマリエとフランソワを抱きしめた。
「あとのことは、心配するな」
おじいさまの言葉は心強かった。
でも、私は17歳。成人の年だ。私がなんとかしなくてはいけない。それにまだフランソワは幼い。フランソワをなんとか一人前にしなくてはいけないわ。
子爵領の経営も、領民の生活も私にかかっている。
マリエは奮い立った。
幸いなことにマリエは王立学校に通わず、家庭教師からすでに十分な語学や政治学、地理、歴史学などを教わっていた。
学校に行けない暗い貧乏だったわけではないし、頭が悪かったわけでもない。
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